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イニシャル

 イニシャルの盗難が相次いだ。
 
 自身の名前を奪われ、
 人々は混乱した。
 
 警察は捜査を進めているが、依然犯人は分からない。
 
 中でも皆が知りたがったのが犯行動機だ。
 こんなものを集めて何になるのだ、と。
 
 高額での取引か。
 ただの愉快犯か。
 
 人々は固唾を飲んで捜査の行方を見守る。
 
 そんな中、僕は苦笑交じりにカクテルを作る。
 
 街外れのバー。
 隠れ家のようなそこで、イニシャルたちの宴が開かれていた。
 
 人間の混乱模様にイニシャルたちは大はしゃぎ。
 
「そろそろやめたら?」
 
 僕の言葉なんてイニシャルたちには届かない。
 
 警察に一報を入れようとも考えた。
 
 だが、人間の名前から解放されたイニシャルたちは、
 本来の一文字に戻り、他のイニシャルたちと様々な単語を作る。
 
 あまりに楽しそうだ。
 
 僕は作り終わった酒を、カウンターに置いた。

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