中二階
この建物には中二階がある。
一度訪れたことがある。
光の溢れた美しい部屋だった。
だが、あれから一度も行けた試しがない。
エレベーターに乗っても、
階段を上り下りしても、
中二階への道がないのだ。
そんな話を誰ともわからない誰かに話すと、
その誰かは笑った。
そして、僕を階段の踊り場に案内する。
その誰かが壁を強く押すと、
カチッ、と音がした後、壁が回転した。
現れたそこはやはり、光溢れた美しい部屋だった。
――いつか、また遊びに来て欲しい。
その言葉を聞いたや否や、僕は何の変哲もない踊り場に戻っていた。
壁を押しても何も起こらない。
――まだ、早いよ。
その誰かの微笑んだ柔らかい声。
そういえば、その誰か、彼は、去年この世を去ったのであった。
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