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コッヘム おとぎの国のお城

以前書いたハイデルベルクの記事は、友人との思い出話。
今回も、その友人と訪れた街コッヘムについて。

私達はコブレンツの街を訪れた後に、コッヘムへ足を延ばした。
コブレンツは、ライン川とモーゼル川が合流する地点にあたり、そこがDeutsches Eckドイッチェス エック ドイツの角と呼ばれる観光地になっている。

ドイツ騎士団が名付けたというその場所には、ドイツ統一を成し遂げたヴィルヘルム1世の大きな銅像が建っている。
コブレンツでなく、ヴィルヘルム1世の像はドイツ各地にある。

Cochem
さて、コッヘムはモーゼル川沿いにある街だが、友達に勧められるまで、私はこの街の事をあまり知らなかった。
そのため、ほとんど前知識のないまま訪れた街だったのだが、その街とお城の美しさに驚いた。
 
コッヘムにあるため、コッヘム城と呼ばれる事もあるそのお城は、11世紀に建てられた。
神聖ローマ帝国の手にあった事から、Reichsburg帝国城が正式名称だという。
帝国城=ライヒスブルク城という厳つい名前とは裏腹に、まるでおとぎの国から出てきたようなお城だ。
 
17世紀、ラインラント=プファルツ継承戦争によって、お城は大きなダメージを受けていたが、19世紀にネオゴシック様式にて修復され、今の形になったという。
葡萄畑の中に建つお城は、驚くほどに綺麗だ。

お城の門は、とても強固に見える。

お城の入り口から、街とモーゼル川を見下ろす。

入り口には、お城の所有者年表が飾ってある。
これはつまり、破壊と復興の歴史でもある。
今は、コッヘム市が所有者だそうだ。


ダイニングルーム

城内で一番大きな騎士の間。

その名の通り、その先を進むと騎士の甲冑があり、十字軍時代のものを再現したものだそうだ。
そのうちの一つは、2.5メートルほどの大きさだ。
こんな巨人と戦うのは嫌ね、と友達が笑いながら言う。

再び、モーゼル川を見渡す。
ライン川の川下りも良いが、モーゼル川の船旅も人気だそうだ。
対岸には、葡萄畑が見える。

中庭の様子

ケーブルカーでPinnebergと呼ばれる山に登れば、また違う眺めが楽しめる。
遠くから見ても、モーゼル川沿いに建つ城は美しい。

ここには大きな十字架があり、Pinnerkreuzピナー山の十字架と呼ばれている。
昔、迷子の羊を助けようとした羊飼いが、自ら犠牲になり命を落とした崖。
この十字架は、夜もずっとその光を街に届けている。

切り立った岩山の頂上に、十字架が掲げられてられいる。

また、ここコッヘムにはある秘密の場所があった。
それは、ドイツ連邦銀行の秘密防空壕だ。
住宅街の中にあり、当時の外見は車のガレージに似せて造られたそうだ。
まさか、こんな普通の住宅地の中に、秘密の計画が潜んでいるとは誰も気付かない。 

一旦地下に入ると、ヒンヤリと冷たい空気が流れる。
100メートルの長い通路を抜けると、8トンもの重さのドアが待っている。


冷戦期の核シェルターとしての役割もあり、壁の厚さは4メートル。
そして、ハイパーインフレに備え、BBl IIと呼ばれる誰も知ることがない秘密の紙幣がここに保管されていたという、
その金額は150億マルク。

長い長い通路が中央に走る保管倉庫には、紙幣が入った段ボールが隙間なく並べられていたと言う。

核爆弾が落とされても、170人ほどの人が2週間は生存可能な設備が整えられており、自家発電をし、飲料水も4万リットル確保されていたそうだ。
通信設備、寝室、診療所、キッチンも整っている。

見学が終わると再び街に戻り、ワイナリーに入った。
街には木組みの家が残っており、お城だけでなく街も中世に戻ったかのようだ。
木組の家が好きな私は、このような街並みを見るだけで嬉しくなってしまう。

また、モーゼル川流域は、ローマからワイン作りが伝えられた最古の土地とも言われており、街のあちこちにワイナリーが並んでいる。

散々迷い、こちらのワイナリーへお邪魔した。

モーゼル川流域では、Weinrömerと呼ばれるグラスで提供される事が多く、たいていは、0.20リットルの小さなグラスだ。
ドイツのグラスは、上部に目盛がついており、そこまで達していない場合は、きちんと目盛まで入れてもらうようにお願いする事もできる。
とはいえ、いつも目盛より多く注がれている事が多いのだが。

このグラスの名前のRömは、ローマの意味だと思っていたら、低地ドイツのrömen自慢するという意味から来ているそうだ。
つまり、自慢のグラス、栄光のグラスとでも言えば良いのだろうか。
言われてみれば確かに、トロフィーを小さくしたような形にも見える。

美味しく冷えたワインを飲みながら、知り合ってから何年経ったかな?という話になり、指折り年を数えてみた。
既に人生の半分はお互いを知っていることに気付き、軽く驚く。
あっという間だったね、と友達が言う。
 
 
『ねぇDito、私達がまだ英語で話していた時の事を覚えてる?
私、もう英語なんてすっかり忘れちゃったわ』
 
 
そうだった。
私達はお互いに、拙い英語で文通を始めたのだ。
彼女がいなければ、私はドイツ語を学ぼうとしなかったし、彼女がいなければドイツに来ようと思う事はなかった。
 
私がドイツに行くことを決めた時、喜んでくれた友達。
初めてドイツで仕事が見つかった時にも、まるで自分の仕事が見つかったかのように喜んでくれた友達。
かけがえのない人だ。

私達は美味しいワインを飲み、上機嫌でモーゼル川にかかる橋を目指して歩く。
橋の上から見るお城は、おとぎ話の絵本の挿絵を切り取ったかのように美しい。

旅を終え、デュッセルドルフに戻ってから、彼女にメッセージを書いた。

久しぶりに会えて嬉しかったこと。
そして、あなたに会えた事で私の人生が大きく変わったこと。
あなたと知り合えたことを、心から嬉しいと思っていること。
彼女の家族みんなで私をサポートしてくれたからこそ、今の私がいること。
感謝の気持ちを丁寧に書いて送った。

 
メッセージを送ってしばらくすると、彼女から電話がかかってきた。
 
『あのね、Ditoのドイツ語はね、まだちょっと間違いがあるのよ。
でもね、私を泣かせるには充分だわ』
 
 
彼女は、少し声を詰まらせながら、そう話し始めた。
彼女らしい、ジョークの詰まった最上級の褒め言葉だ。

 
ふと、コブレンツのドイッチェス エックを思い出す。
二つの川が合流する場所。
私達二人の人生のようだと思う。
知り合うまでは別の場所にいたけれど、知り合ってからはずっと人生の思い出を共有している。
 
そして、そのラインの流れはデュッセルドルフまで続く。

そうだ。
私達はどんなに離れていても、いつも側にいる。
 
ライン川を見ると、父を思い出す。
モーゼル川では、大切な友達を思い出す。
 
川を見ると、大切な人を思い出すのは何故だろう。
 
コッヘムの思い出は、おとぎの国のお城と、大切な友達。
そして、感謝の思い出。

父との思い出のライン川について

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