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聖ニコラウスの日 サンタさんより前のサンタさん

12月6日は、聖ニコラウスの日。
St. Nikolaustag
 
ドイツで勤務開始後、初めての聖ニコラウスの日のこと。
会社に行くと、デスクにサンタのチョコがポツンと置いてあった。
お菓子を分けてくれる人はたくさんいるが、いつもはメモが付けてある。
しかし、それにはメモがなかった。

御礼を言いたくてみんなに聞いて回ったけれど、誰も自分からではないと言い、ニコニコしながら首を横に振る。
 
おかしい。
そんなはずはない。
 
私が訝しがっていると、以前カーニバルのお話の時にも出てきた仲良しのおばさまが、こんなことを話し始めた。
 
『Dito、それは聖ニコラウスからの贈り物だから、会社の誰かからではないのよ』
 
一体、聖ニコラウスって誰?
 
おばさまは、私の困っている表情を汲み取り、お話をしてくれた。
 
ドイツには、元々クリスマスの日のプレゼントはなく、この聖ニコラウスの日にプレゼントをもらうことが習慣だったそうだ。
だから、子供たちはこの日を心待ちにしている。
前日に靴を綺麗に磨くと、その中にプレゼントが入っているそうだ。
 
『Ditoも良い子だったから、聖ニコラウスがプレゼントを持ってきたのよ』
 
なるほど、そんな理由があったのか!
学生時代にも、このチョコをよく見かけていたけれど、クリスマス用だと思っていた。
別のイベントがある事を、私は知らなかったのだ。
おばさまの心遣いが嬉しくて、私はチョコを食べることができず、ずっとデスクに飾っておいた。
おばさまは私の席の近くを通るたびに、まだ食べないの?と私をからかった。

その後に知り合った友達の誕生日が、偶然にも12月6日だった。
友達は、自分の誕生日と聖ニコラウスの日が一緒なのが気になって、色々調べたのだと言って教えてくれた。
 
聖ニコラウスはトルコの聖人で、慈悲深い彼はたくさんの人を助けたお話が残っているという。
 
聖ニコラウスの日は、子供たちがプレゼントを楽しみにしているが、全員がプレゼントをもらえる訳ではない。
聖ニコラウスは、片手に本を持っており、その本には、子供たちが一年間どのように過ごしたか、良い子だったか悪い子だったか、全ての情報が書かれているのだそうだ。
 
一年間きちんと約束事を守り、良い子でいたならば、子供たちはめでたくプレゼントがもらえる。
しかし、もし悪い事ばかりしていたら。。。
聖ニコラウスに代わり、クネヒト・ルプレヒトというお付きの者が、子供たちに鞭でお仕置きをして、袋に入れて連れて帰ってしまうという。
 
なるほど、Ditoが良い子にしていたから、とおばさまが言ったのは、そういう理由だったのか。
 
初めてパートナーと一緒に聖ニコラウスの日を過ごした時、パートナーは少し恥ずかしそうに子供時代の事を話し始めた。
 
毎年この日になると、学校には聖ニコラウスと、クネヒトがやってきたのだそうだ。
子供達は、聖ニコラウスに会えるので嬉しくて喜んでいるのだが、パートナーはこのクネヒトが怖くて仕方がなくて、一度も喜べなかったという。
 
背が大きく、がっしりしているパートナー。
そんな彼が、幼い日に身を小さくして怯えている姿を想像し、思わず笑ってしまった。
それにつられるように、パートナーも笑い出した。

パートナーは歴史についても、たくさんの事を教えてくれた。
 
16世紀に入り、宗教改革が行われた。
プロテスタントでは、聖人崇拝は禁じられるようになったため、聖ニコラウスの日というものの存在が疑問視されるようになったそうだ。
そのため、聖ニコラウスの日の代わりに、クリスマスにプレゼントをあげるという風習に移り変わったそうだ。
 
この風習は、いつの間にか海を越え、世界に広まって行った。
聖ニコラウス(ザンクト・ニコラウス)という名前は、国をまたぐ度に呼び方が変わり、サンタ・クロースに落ち着いたという。
 
ちなみに、ニュルンベルク地方では、この聖ニコラウスの代わりに、天使の格好をしたクリストキントがプレゼントを運んでくると信じられている。
聖ニコラウスは男性だが、クリストキントは女性だ。
二年に一度このクリストキントが選ばれ、その様子はテレビ中継され大きな話題となる。
 
聖ニコラウスは司教であったため、帽子と杖を持っている。
サンタクロースは、赤いマントと赤い帽子。
 
コカ・コーラ社が、同社商品ラベル色の赤い衣装を着せたCMを作り、冬の時期にもコカ・コーラを飲んでもらおうと、大々的にキャンペーンを行った。
そして今、サンタクロースは赤い服を着て、髭を生やしたおじさんというイメージが定着した。
 
私は、サンタクロースの衣装がコカ・コーラのCMから来たのは知っていたが、聖ニコラウスがトルコ人だという事や、司教だったことは知らなかった。
 
実在の人物、そして歴史、逸話、偶然が重なり今の風習ができあがる経緯を知るのは、本当に面白い。
 
こうしてみんなのお陰で、私は聖ニコラウスのお話を知ることができた。

さて、私はドイツに来てから、この時期に行っている事が一つある。
それは、孤児のためにクリスマスプレゼントを寄付する活動だ。
このような取り組みは、ドイツだけでなく世界各地で行われているようだ。
 
私達は、主に欧州の孤児向けの活動に参加している。
プレゼントは、男の子用と女の子用の二つを準備する。
決まりはいつくかあるが、一番大きな決まりは、靴の空き箱にプレゼントを入れる事。
集めたプレゼントは各国に送られる前に、中身がチェックされる。
そのため、丈夫な箱であること、箱の大きさが統一されていること、そして開け閉めが簡単にできることが重要視される。
 
私達は、味気ない靴の空き箱が少しでも可愛く見えるように、丁寧にデコレーションをし、プレゼントを探しに行く。
男の子には車のおもちゃ、女の子には小さなぬいぐるみや人形。
アレルギーや、宗教上食べられない物もあるので、食べ物はお勧めされていない。
歯ブラシセットは、特に望まれるプレゼントなので、子供が喜びそうな可愛らしい歯ブラシや歯磨き粉を探す。
塗り絵セットも必ず入れる。
クリスマスらしいおもちゃを見つけると、靴箱に入るかどうか、あれこれ考える。
時には、プレゼントを買いすぎて靴箱に入らない事もあるくらいだ。
 
プレゼントを箱に詰め、パートナーと二人で写った写真と、クリスマスカードを添える。
カードには、英語とドイツ語、そして日本語でメッセージを書く。
 
Merry Christmas & Frohe Weihnachten & メリークリスマス
 
日本語を読める子はいないだろうが、それでもいい。
私達の気持ちは、きっと伝わるから。
 
どんな子供が、今年の私達のプレゼントを受け取るだろう。
どんな顔でプレゼントを受取り、どんな顔でプレゼントの箱を開けるだろう。
どんな顔でぬいぐるみやおもちゃを、箱から取り出すだろう。
気に入ってもらえるだろうか。
喜んでくれるだろうか。
 
それを考えるだけで、私はとても嬉しい気持ちになれる。
 
そう、私は、一日だけのニコラウス。

この活動にご興味を持って下さった方のために、サイトをご紹介します。

こちらは欧州地域対象ですが、調べたところ、日本の赤十字のあしながおじさんでも同様の活動をされているようです。
多くの方がこのような活動に興味を持って下されば幸いです。
一人でも多くの子供が、クリスマスに笑顔になれる事を、心から願っています。

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