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名前の日 私にできる100のこと
ドイツに来てから知った習慣の一つに、面白いものがある。
それが、Namenstag(名前の日)だ。
名前によって、その『名前の日』が決められている。
名前の日というカレンダーがあり、自分の名前を探して、名前の日を見つける。
この日は、誕生日と同じように、小さなプレゼントでお祝いをする。
これは、全くやらない人もいるし、毎年お祝いする人もいる。
家庭によって、その差はあるようだ。
いつも誰かの名前の日をお祝いする度に、あなたには名前の日がないのに、プレゼントをくれるなんて何だか悪いわ、と言われる。
そう言われてしまうと、私には名前の日がないので、たしかに残念だと思ってしまうのが不思議だ。
パートナーの名前の日は、ささやかなお祝いをする。
今までにもう、色々なものをプレゼントしてきたので、ネタが尽きている。
欲しいものはリクエストしてもらうが、何も要らないと言われる時が一番困る。
私に名前の日がないから、リクエストをしにくいと思うのだけれど。
何度聞いても、要らないの一点張り。
いくら聞いても、全て持っているから要らないという。
また手作りのケーキを焼いてくれたら、それが一番嬉しいと言う。
パートナーが甘いものを好きなのは知っているが、やはりそれだけではつまらない。
リクエストに応え、アップルカスタードケーキを焼いた。
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困った私は、ケーキの他に、プレゼントを手作りしようと思い立った。
買ったものは、小さなガラスの容器とリボンだ。
私は、自分がパートナーを喜ばせる事のできる100の事を考えてみた。
子供の時に、祖母や父に手作りをして渡した肩たたき券の、『オトナバージョン』だ。
100個くらいはすぐに思い浮かぶと思ったら、これがなかなか難しい。
70個目辺りからは、なかなかアイデアが出なくなってきた。
思い浮かんだと思ったら、すでにメモしていたり。。。
パートナーが私にしてくれて嬉しかったことを、同じように返したい。
友達が私にしてくれて嬉しかったことを、パートナーにもしてあげたい。
こんなことがあったら素敵だなと思う体験を、パートナーにしてもらいたい。
もし機嫌が悪い日があったら、私があなたを笑わせたい。
もし嬉しいことがあったら、その喜びを分かち合いたい。
些細なことだけれど、思いつく限りのパターンを用意して、丁寧に作った。
何とか100個作り上げた時は、ホッとした。
大変な作業だったのだけれど、作っている間に色々な事を考えた。
私は今まで、たくさんの人に幸せを分けてもらっていたこと。
たくさんの人の顔を思い出した。
これは、パートナーへのプレゼントだったけれど、私が自分の幸せに気付くことができる素晴らしい機会になっていた。
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プレゼントを渡したその日、パートナーはとても驚いていた。
そして、その小さな紙の一枚一枚を、大切そうに読み上げてくれた。
時には、ふざけた内容のものがあって、それを読んで豪快に笑ってくれ、また、真剣な思いを伝えるものには、一回一回ハグで返してくれた。
最後に読んでもらいたくて、ガラス容器の一番下にしておいた一枚。
私はそれを自分で取り出して、ゆっくりと、そして丁寧にパートナーに渡した。
『あなたと一緒に歳を取ること』
それが、今の私にできる、最大の愛の表現だ。
パートナーは、何も言わず、長い長いハグで、私の気持ちに応えてくれた。
ハグをされたまま、パートナーの胸の中で、
『どうか、一秒でもいいから、私より長生きしてね』
とお願いする。
パートナーのいない世界は、今の私には想像ができない。
100個の幸せを僕に与えようとしながら、僕に悲しい思いをさせようなんて、君はなんてひどい人なんだ。
でも、君が悲しむのを放って置くくらいなら、僕がその悲しみを引き受けるよ。
パートナーはそう言って、今までより更に強く、私を抱きしめてくれた。
パートナーは時々、こんな風に詩人のような言葉を使う。
そんな所が、パートナーの母によく似ているなと思う。
パートナーが紡ぎだす言葉の全てを完全に理解できた時、そしてその言葉で感動した時、私はドイツ語を勉強していて良かったと、心から思えるのだ。
オトナの肩たたき券。
私にできる100個のこと。
そして、私にできないたった一つのこと。
それは、あなたのいない世界で生きること。
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