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大きな忘れ物

おいでませ。玻璃です。

終戦の翌年、昭和天皇が人間宣言をされた年に漁師と海女さんの両親の元、
6番目の子として生まれた洋平。
漁師の父は洋平が母のお腹にいる時に海の事故で亡くなった。
そして、母も洋平が生まれてすぐにガンを患って亡くなってしまった。

両親ともに亡くなった時、生まれたばかりの洋平と、すぐ上の兄の清はあまりにも小さく、他の姉弟たちもまだ幼かったので、就職した一番上の静子以外、それぞれバラバラに養子に出された。
そして一番小さい洋平は母の海女さん仲間だったフチ夫婦の養子になった。

長女の静子にとって、洋平は一番気がかりで不憫で可愛い弟だった。
「私が何とか育てられないだろうか・・・」
最後まで静子は悩んだという。

吉忠とフチに引き取られた洋平は、貧しいながらもすくすくと育ち、一年中真っ黒な肌をして朝から晩まで海や山を駆けまわっていた。

ガキ大将の洋平は仲間たちといつも集落の裏山で遊んでいた。
ジャンケンで負けた友達を木に括り付けて隠れる。
その括られた子が縄抜けをして仲間を探す。
なんの遊びか不明だがその頃の洋平たちの考えた「かくれんぼ」なのだろう。

ある日、裏山でいつもの悪ガキ軍団がそのかくれんぼをして遊んでいた時のことである。
括り付けられた友達が追って来るまでの間、他の遊びを始めた洋平たち。あろうことか、括り付けた友達の存在を忘れて夕暮れの山からカラスと一緒に帰ってしまった。

そして夕飯を食べている時…。
ドンドンドン
玄関の扉をたたく音。

「洋ちゃん!洋ちゃん!!
もうこんなに暗くなったのに、うちの子帰ってこんのやけど洋ちゃん知らんかね!?」

「え…? あ!山に忘れてきた!!」
持っていた茶碗を放り出して、洋平は大人たちの脇をすり抜けて

「おばちゃん、ごめん!山に置いてきたぁ!!」
言うが早いか、洋平は山に向かって走り出した。

息を切らしながら括り付けた木まで走りに走った。
後から大人たちも走ってくる。

木までようやくたどり着いたが、友達は縄抜けできないまま、泣き疲れてぐったりしていたという。涙と鼻水で顔はグシャグシャだった。

「悪いことしたなぁ、ほんとごめん!」
と、こちらも涙でグシャグシャの洋平。震える指で縄をほどいた。

後から追ってきた大人たちに大目玉を食らったのは言うまでもない。
洋平は父親の吉忠に張り倒され、横っ飛びに吹っ飛んだ。
被害にあった友達の親が仲裁に入ったくらいこっぴどく怒られた。

そんな事件があったにも関わらず、悪ガキ軍団は今日も裏山で暗くなるまで遊ぶ。昭和っていいなぁ。

時は流れ、悪ガキ洋平も中学に入学。
洋平の青春時代の始まりである。
続きは次回。

ではまたお会いしましょう。

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