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鼻血とばあちゃん飯

おいでませ。玻璃です。

私は、生粋のばあちゃんっ子だ。
朝から夜まで商売で忙しかった母は、父方の祖母に小さい私を預けて仕事をしていた。

海沿いを走る国道から少し入ったところに祖母の家があった。
潮の香りと鮮魚の匂い。大漁旗のはためく漁港のすぐ近く。

左官をやっていた祖父が亡くなり、祖母が一人になってからは、土木関係の手伝いに行ったり、仲間とサザエやウニなどの海の幸を潜って獲り生計を立てていた。

たまに一人で岩場の海に潜りに行くときは、預かっていた私も一緒に連れて行く。その海は岩の山と足元には大人が2人座ってくつろげる程度の平らな岩があった。そこで私は祖母が潜る間、遊びながら待った。

ザバーン。ザバーン。
ピーヒョロロ~

白い波が岩に当たる音。
抜けるような青空にはトンビの声。
鼻をくすぐる潮の香り。
私の小さな顔や身体に優しく吹き付ける海風。
潜っては息継ぎのために顔を出す祖母のパシャンという水の音。

「ばあちゃんが上がるまで、動かんで待っちょってね~!!」
「はぁーい!」

祖母が上がってくると網の中には小さな貝や海藻、そしていかにも痛そうなトゲトゲの黒い物体・・・。
私の大好きな黒い物体。鋭いトゲトゲも祖母の長い間働いて固くなった手の皮膚には歯が立たない。
祖母は少し錆びついたハサミで物体をパカッと割った。
中からオレンジ色の小さく瑞々しいプリプリとした身が出てくる。
そう。天然物のウニだ。

スプーンですくい海水でササっと洗って、今か今かと固唾をのんで待つ私の前に差し出してくれる。

チュルチュルっと音を立てて口に含むと、何とも言えない潮の香りと程よい海水の塩加減。
濃厚でほんのり甘いウニの身が私の口の中いっぱいに広がる。

そして家に帰るとお待ちかねの…。
名付けて「ばあちゃん飯」

◇器に盛られたプリップリのウニ
◇夕方漁港で釜から上がったばかりの新鮮な釜揚げしらすごはん
◇固めの木綿豆腐を大きめに切った、だしの効いた豆腐の味噌汁
◇濃い茶色になったばあちゃん特製の古漬けたくあん

「うーに!赤ちゃんびぃびぃ!(しらすのこと)」
私は小躍りしてモリモリ食べた。

そしてこの贅沢ご飯を食べると決まって翌日鼻血を出した。
子供にとって、獲れたてのウニは濃厚で刺激的な食事のようだ。

私が生まれて半世紀以上の時が流れたが、あのばあちゃんのご飯ほど絶品な食事には出会っていない。

そして孫ができた今ならわかる。
身体が冷たくなっても何度も何度も孫の好物のために海に潜ってはウニを獲っていた祖母の気持ちが。

「ばあちゃん、鼻血が出るほどたくさんのウニを食べさせてくれてありがとう。」

ではまたお会いしましょう。


#元気をもらったあの食事


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