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武家屋敷で候

おいでませ。玻璃です。

母の突然の発表。
「玻璃ちゃん、また引っ越しするんやけど。」

2年生で大きなおうちを追われ、3年生はカエルの大合唱が聞こえる小さなおうちで過ごし、4年生で藍場川近くに引っ越した。
そして、間もなく5年生になろうかというところでまたもや持ち上がった引っ越し話。

年一回の恒例行事になってしまったお引越し。
家賃が安いところに引っ越しているのか、少しでも広いところにと引っ越しているのかはわからなかった。

萩の街は城下町。
私が産まれた大きなおうちは萩城のお堀の内側の堀内地区。
堀内は旧萩城三の丸にあたり、藩の諸役所 と毛利一門をはじめとする大身の武家屋敷が建ち並んでいた場所。

そして、その後移った小さなおうちは、平安古地区。
平安古は旧萩城三の丸を囲む外堀の 南に位置。開墾が進むのに並行して数多く の武士が屋敷を構えた場所。

そこから引っ越した藍場川のある川島地区は中等武士が暮らしたとされる地区。たくさんの総理大臣を輩出した萩市だが、山県有朋と桂太郎はこの川島地区の出身だ。

さて次なる私の引っ越し先はといえば、またもや堀内地区に返り咲き。
なんと築100年以上経った武家屋敷だった。
ただ、この家は大きな家ではなかったのでもしかしたら大身の武家の家臣の屋敷だったのかもしれない。

玄関を上がったところには畳敷きの玄関の間があり、座敷や奥座敷、二の間に茶の間、その奥には板の間があり土間の台所。
座敷の向こうには涼しげな縁側があり、縁側からはこじんまりとした庭が見える。
そして、もっとも印象に残っているのはトイレ・・・いや厠(かわや)だ。
板張りの汲み取り式でとにかく臭くて怖い。
綺麗好きな母はいつもきれいにしていたが、そういう問題ではなかった。
水道も厠には引いていないので手を洗うのは厠の入り口に吊り下げてある手洗い器で手を洗う。

まさにタイムスリップ。

天井は低く、古さのために建物内の床があちこち傾いている。

月子姉さんと舞姉さんが、都会から里帰りしていたある日の事。
テレビのロードショー番組で1976年制作の「キャリー」というホラー映画をやっていた。

1976年制作 『キャリー』

夜の武家屋敷、姉妹三人で観るホラー映画。
幽霊系ではなかったが、ラストシーンは三人で絶叫だった

「いや~怖かったねぇ。」

ホラー大嫌いな舞姉さんは完全に震えあがっている。

「玻璃ちゃん、トイレついてきて。我慢しとったから漏れそう~」
と、舞姉さん。

「え~、月子姉ちゃんと行けば?玻璃はまだ小学生なんよ。」
と、私。

「大丈夫、大丈夫。何も出てこんよ。」
とこたつで平然とおかきをつまみながら動かない月子姉さん。

仕方なしに私がついて行った。
だがこの場合、用を足している舞姉さんより、暗い厠の前の廊下で一人待っている私の方が断然怖い。

「玻璃ちゃん、おる?」
トイレの中から呼びかけてくる舞姉さん。
「おるよー。怖いから早くしてぇね~。」

どこからか風が吹き込み、吊るされた手洗い器が微妙に揺れている。
その姿も不気味に見える。

「あースッキリした。玻璃ちゃんありがとう。」
やっと舞姉さんが出てきた。

その時・・・ガタンっ!!
庭から音がした!

ギャーー
キャアーー

二人でもつれ合うように茶の間に戻った。
その二人を見て爆笑する月子姉さん。

物音の主は結局わからなかったが、今でもその時の暗さや寒さははっきりと覚えている。

そんな武家屋敷での私の生活にこれからしばしの間お付き合い願いたい。

ではまたお会いしましょう。



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