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もしも15年前,17歳の自分にポメラを贈るなら

こんにちは.この文章がみえているということは,無事に届いたようですね.
改めてこんにちは.私は15年後,つまり32歳のあなたです
急にそんなことをいわれても,そもそも目の前のコレが何かもわからないあなたは混乱してしまうでしょうが,大丈夫です.まあ夢でも見ていると思って私の話を,正確に言えば,私のお願いを聞いて(読んで)ください

まず,あなたの目の前にある端末は,ポメラといいます.キングジムという会社が作っている,携帯できるワープロのようなものです.小学生の時に,伯母に借りたワープロで小説を書く真似事をしていたのを覚えていますか?というか,私が忘れていないのだから,あなたも覚えているはずなんです.そのときに使っていたものと,大体同じものだと思ってくれれば構いません.これは,15年後の私からのプレゼントです.(そろそろ17歳の誕生日のはずです)といっても,未来の物は過去に送れない決まりだそうなので,15年前,つまりあなたが生きているその時代に発売されたばかりの初代モデルを送ることにしました.この端末では,(今あなたが喉から手が出るほどほしいと思っているであろう)ノートパソコンのようなことは,残念ながらできませんが,キーボードで文章を書くことはできます.はい,それだけです.何でそんな前時代的なものなんだよ,何に使えばいいんだよ,というあなたの台詞が聞こえてくるようです.どう使うかは,正直なところ,あなた任せにしようと思っています.だから,次の瞬間にあなたがこれをハードオフかなにかに売りはらってしまっていたとしても,それはそれとして,あなたの決断を尊重するつもりではいます.ただ,まずは最後までこれを読んでからにしてくれたら,幸いです.

今のあなたは高校のクラスメイトに今ひとつ馴染めなかったり(これはあなたにとってかなり希有な体験なはずです),将来の進路に悩んでいたり,修学旅行に向けて期待に胸を膨らませていたりするでしょう.そのどれもが私にとって大切な青春の1ページといったところなのですが,あなたにとっては直面している現実なのですね.毎日を生きているあなたにとって,こんなことはその他数多の瞬間の一部なのだろうと想像はできます.しかし,残念ながら,15年という月日はあなたが今感じている100分の1さえも,記憶にとどめてはくれないのです.悲しいかな,青春と呼べる日々を今の私は殆ど忘れてしまっているといってもいいでしょう.
こんなこと言うと,15年後の自分が何かに絶望して,懐古主義にとらわれた悲しい大人になってしまっている,とあなたは思ってしまうかもしれませんね.安心してください.15年後の私もそれなりに幸せに,いやもっと正確に言うなら,今のあなたには想像のできないような幸せの中で毎日を過ごしています.ただ一つだけ,先に述べたとおり,高校時代の殆どの記憶を時間の経過とともに失ってから,それらの日々を自分の言葉で書き残しておかなかったことに気付き,深く後悔しているのです

そこで,あなたにポメラを送ることにしました.あなたに,何気ない,特別でない毎日を,気持ちを,記憶を記録してもらうために.もちろん,紙とペンを送っても良かったのですが,そんな物は高校生活を送るあなたにとってはありふれた道具たちでしょうし,それらがあってもなお記録を残せなかった私を鑑みると,何か特別な道具を送った方がより効果的であろうと思ったのです.

私のお願いは,とても単純なことです.
今,あなたが感じていること,好きなこと,嫌いなこと,不安なこと,心が震えたこと,見たものや聞いたこと,何でも構いません,とにかく何でもこのポメラに書き残してほしいのです.15年進んだ世界の私は32歳を迎える歳になって初めてこの端末を手に入れました.あなたの持っているものよりは幾分便利になって,スマートになってはいますが,基本的な機能は変わりません.もっと早く持っておくべきだった,と後悔しているくらいなので,使ってみたらあなたも気に入ってくれると思います.幸い,参考書や教科書でパンパンになったあなたのカバンにも,このポメラならどうにか入るでしょう.是非,往復2時間ほどかかった通学路,特に,長いバスの中なんかで使ってくれるとうれしく思います.

さて,私のお願いは以上です.ここまで読んでくれてありがとう.
15年分の未来を具体的に知りたいと,あなたは思っているかもしれませんが(特に1年後の受験結果などを)それを教えることは残念ながら許可されていません.もし許可されていたとしても,あなたはそれを知らない方がいいと思います.知らずにここまで来た私がそう思っているのだから,間違いなく.

そろそろお別れの時間です.
15年を振り返ると,やや辛い経験の方が多かったように思いますが,それでも概ね半々と言ったところだと思います.つまり,これからあなたに待ち受ける,少なくとも15年分の未来は,案外悪くないということです.

身体を大事に.
それから,母方のおばあちゃんには,よくよくお礼を言っておいて下さい.それでは,15年後にまた会いましょう.
その日まで,さようなら.

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