祖父へ(仮題)
まだ僕の背が、
あなたの半分くらいしかない頃から、
あなたの手は乾いていたと思う
流れに逆らわず、
時に土に埋めるように生きたあなたの
乾いた手が、僕は好きだった
多くを語ることは無く、
口にはいつも、短い煙草をくわえていて、
虫の音しか聞こえない縁側に昇る
吐いた煙のような、
あなたの生き様は美しかった。
僕が僕として存在する根源であるあなたが、
秋の終わりの影のように、まもなく消えて逝く。
生まれゆくもの達の隣で、眼を閉じる
変わりゆくもの達の隣で、息を止める
そうして僕は再び、生まれた意味を知り、
湿った青い深呼吸が、肺に満ちてゆく。
あなたの生きた大地の上で
波に濡れて色付いた砂浜の、
埋もれた貝殻をそっと耳に当てれば
あなたと過ごした夏が聞こえる。
僕が愛した夏が聞こえる。
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