ゾンビ

どうしてこんなにもヒトの身体は
前に進むことに特化してしまったのだろう
あるいは、進行方向のことを前と定義づけた
誰かのせいだろうか

勿論右にも左にもまして後ろにも
逃げ道も隠れ家もなくて
例えばここで目の前から猛スピードで迫ってくる
波、土砂、馬、トラック
その全てが僕を飲み込んで押しつぶして
ここで死んでいくしかない。全く
理不尽極まりない

右足を出すと、左手が前に
身体のバランスはとても精巧にできていて
多分この瞬間に僕が大事な脳みそを失っても
前にだけ進むことなら、暫くは続けられる
そんなゾンビのような身体になれるはずだ

昔擦りむいた膝小僧を撫でるとやっぱり血は流れていて
目に見えない傷跡が治りましたって笑顔で
僕らを少しずつ殺していくんだなって思う

もし仮にここで君が僕の手を離して遠くへ旅立っていっても
僕がこの場で絶命することはないのだけれど（それはとても悔しいことだ）
やっぱり心が搾り取られたレモンみたいにもう
どうでも良くなってしまうだろうから、何もかも
そんな僕はきっと、立派なゾンビになれるって思う