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深海時計

時を戻すように煙草に火をつける
当たり前なのだけれど、時は戻らない
この世界には僕らの無視出来る真理があって
そしてそんな真理が僕は大嫌いだ

逆回りする時計を僕が作っても
それは時間の積み重なりを
反対側から眺めているだけで
火をつけた煙草が箱に戻って
しん、と佇んでくれることは無い
灰の落ちる速度で人は歳をとるし、
肺の汚れていく音で
僕はじわじわと殺されていく

きっと世界でいちばん深い海の底にいる
クジラの体内で僕らの時間は飼われていて
休むことなく揺蕩う彼の速度に合わせて
僕らの心臓は鐘を鳴らすのだ

いつかこの鐘の音が止んだあと
やっぱり僕は灰になって、
澱んだ海水の一部になるのだろうから
いちばん深い所まで沈んだそれを
慰めるみたいに取り込んでいる彼を
僕は輪廻と呼んでいる

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