幻肢
君は僕だけのものだなんて思い上がれるほど弱くはいられなかったのだから、この失恋は幻痛だ。
失くした右腕を探すようにいつかの僕だけが泣いている。それを悲しいと思えずに通り過ぎる電車を眺めたあの踏切が鼓膜だけに訴えた。全部が過去で、全部が遠すぎた。
もう君を抱きしめられやしないというのに視界だけがずっと覚めていて、反芻した言葉で埋まる病室が息苦しい。窓際に誰かの花が揺れてカラフルな残像がこびりついた感傷を残さず美化してくれたらいいのに。
ないはずの記憶が確信と共にまた痛み出す。断たれた神経から漏れた叫びは脳の一番暖かいシナプスでこだまする
未来なんてもう要らないなあ。僕は失った右腕でナースコールのボタンを押す。
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