夏の君へ

夏が見たいなんて君がせがむから、仕方なく僕らは海へ来た。
海が夏なの、なんて君は呆れて笑う癖に裾を濡らして子犬みたいに笑ってる。
夕日が沈むと夏が行っちゃうなんて君が涙を貯めてごねるから、濡れた砂浜で線香花火に僕らは火をつけた。
花火は夏なの、なんて君は寂しそうに呟きながら先に落ちた火花をじっと見ている。
終わりの風が僕らを包んで、昼間の熱ごと奪い去って、ますます君は小さくなるから、夏は君だよなんて僕は笑って、その濡れた頬を確かめるみたいに口付けた。

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