優(マサル)の章
〜陰に伸びゆく〜
生まれた日のことを、
よく覚えている。
夏のような日差しが
春の風に焦がすような
青葉茂る五月に
君は生まれた。
病室から見えた欅の梢が
歓迎するように
まだふやけた君の顔に影を作って
いつか、照らされることに疲れた誰かの
日陰を作れるような
大きな人になって欲しいと
彼女が呟いて
君の名をつけた
青葉が幾度も枯れ茂り
君はいつの間にか、
私よりも背が伸びた。
羽ばたけば風が
広げれば影が
誰かの、胸を震わせるような
翼をつけた君は
今どこへゆこうとしているのだろう。
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