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せかいのおわりかた

世界が終わる日に

猫はやっときたかあとあくびをしていた
猫は残飯を待っていた
残飯を持ってきたのはおかあさんだった

おかあさんは昨日から帰らないおとうさんを案じていた
すこしせいせいした気持ちにもなった
二階からおかあさんを呼ぶ声がした
呼んでいたのはむすこだった

むすこは世界の終わりをテレビで観て知っていた
明日世界が終わるなら宿題をしなくていいなと喜んだ
夕食を向かう途中で虫かごにつまずいた
虫かごに入っていたのはカブトムシだった

カブトムシはむすこに飽きられたまま死にかけていた
痛みもなく、ただ概念としての生がそこで潰えた
虫かごは夏にむすこがプレゼントされたものだった
虫かごを買ってきたのはおとうさんだった

おとうさんはどうせ世界が終わるならと愛人を抱いていた
おとうさんは愛人と心中するのもいいかもしれないと思った
愛人の鋭い目つきはおとうさんとすり抜けて黒革のビジネスバッグを見ていた
おとうさんはその眼を見て自宅に現れる野良猫を思い出した

つまるところ、誰一人として信じちゃいなかった
今日は今日であり、明日は今日と同じ世界ではないことを気が付きもしなかった
唯一、猫だけはそれを知っていた
知っていたところで猫の世界に明日の残飯はなかった
残飯で腹を満たした猫はもう今すぐ死んでもいいと
背伸びを三度したときに知らない星がいくつも壊れた

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