虚言癖
確かに触れていた
産毛の一本一本が指の腹で
流れていくのを感じていた
脈絡もなく僕らは抱き合った
(脈絡のある抱擁など、この世に必要ではないのだけれど)
たとえ、僕が君で
(或いは君が僕で)
取り返しのつかないほどに
濁ってしまっても
それで良かったのに
もう一度でも眼球を日差しが掠めたら
暴かれる夢だったのだから
(君はそれすらも気付いていたのだろうか)
あんな曖昧な世界の中でさえ
君の意志の強さは息づいていて(嬉しくて泣きたいほどに)
全てを見透かしたような瞳で
最期まで僕を拒んだね(悲しくて泣きたいほどに)
望むだけでは空も飛べないこんな世界で
君の恋人になることだって
もう決して出来はしないのだけれど
そしてどうしてか、僕はいつからか
そんなことをこれっぽちも望んではいないんだ
(欲望と欲求はいつも喧嘩ばかりだ)
やがて
一体何をこんなにも渇いているのかわからないまま
手の届く距離にある適当な鎖を拠り所にして
満たされたふりをして笑う。歩く。(そして君に会う)
この部屋の温度に僕の体温が馴染む頃
君を追いかけることもせずに
また僕は嘘がつけるようになる
(だから安心してほしい)
きっと全部覚えているけれど
また僕は嘘をつけるようになる
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