おやすみ__メリー__1_

朗読可能な童話「おやすみメリー 短縮版」

とある方のアドバイスで、自作童話の短縮版を貼ります。元々のバージョンはこちら。
ちなみに、内容としては、前半 明るい成長物 後半 終末物です。尚、若干修正してます。

規約


※改変自由です(公序良俗の範囲内で)
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本編

1


皆さんはご存知のことかと思いますが、皆さんの夢は現実と密接に関係しています。

その夢と現実の境目に、夢羊の牧場がひっそりと立っています。

牧場内は、L字の角をなくした2棟の茜色の牧舎と離れの小屋があります。

牧場と外界を仕切る木目の柵を抜けると、広々した芝と草むら。草むらの若々しい生臭さがどこまでも匂ってきます。

他には牧場から一キロ離れた所にある、白い柵しか見当たりません。

その白い柵周辺が、彼らの仕事場です。

夢羊達の仕事は、淡々と白い柵を飛び越えて、眠れない人達をリラックスさせて夢枕へ誘うことです。

俗に言う、眠れない時に数えます、羊が一匹、羊が二匹のお話しはどなたもご存知だと思われます。

それは彼らが日々仕事を休まず、ここで働いているおかげでした。彼らの頑張りで、みなさんは快眠できるのです。

今この牧場の牧舎から、新しい夢羊が生まれようとしています。

──おはよう、メリー──

メリーが目を覚ますと、周りにはたくさんの夢羊が彼を取り囲んでいました。

茜色の牧舎の前には、仕事の当番以外全員が中の様子を覗き込もうと押し合いへしあいしていました。

ざわざわした外の様子にメリーもドキドキしていました。

「おはよう」おどおどしながらメリーは仲間達に挨拶します。

それからメリーは夢羊の仕事を覚えていきます。

同時に、幼い彼と白い柵の勝負が始まりました。

2


夢羊の仕事はとてもシンプルで大変。

彼らは柵の前で列を作り、淡々と柵を飛び越えます。飛んだら、列の後ろにトコトコと戻ってきます。

ただし、シンプルとは言っても人間が夢を見ている時間はずっと、乱さず、急がず、丁寧に途切れることなく働かなければなりません。

家族もたくさんです。

メリーが生まれた時も、交代交代でメリーの面倒を見ていました。

そんな中でもメリーは人一倍小さかったのです。

小さな体だったので、メリーは柵を飛び越えられませんでした。

他の夢羊達は呆れながら、彼の穴を埋めて働きます。むしろ、小さな彼が飛ばないことが日常になっていました。

柵に対して、負けっぱなしでした。

メリーは、チョコレート色のひづめで草むらに八つ当たりします。

──どうして、僕だけ飛べないんだ──

踏みつけられた草が、くねくねさせて空を仰いでいます。汁気をおびた、もっと新鮮な青の匂いが彼の鼻にツンとつっつきます。

幼い彼が好きだった匂いも、今は嫌でたまらなくなりました。

気落ちしたメリーの元に、少し上の兄モリーがやってきました。

モリーは彼を励まします。

「大丈夫だよ、メリー必ず飛び越えられるさ」

「無理だよ。モリー兄さん、僕ちっちゃいから」

「次はいけるさ」モリーは言いました。

「全然ダメだよ、モリー兄さん。後足のひづめが、柵に引っかかっちゃうんだ」

モリーはキョトンとします。

「メリー、後足が柵にぶつかるんなら、前足の方はもう飛べてるじゃないか。あとちょっとだ」

数秒考えた後で、メリーの顔がパッと輝きます。

「ほんと、兄さん?」

「ああ。メリー、行こう。もしダメでも、また挑戦すれば良い」

「そうなの?」またキョトン。

「僕は思うんだ。結果も大切だけど、もっと大切なのは、新しいことに挑戦し続けて、やり遂げることなんだ。

もちろん、辛いし楽しい道のりという訳でもないけどね。でもやってよかったと思える……きっとメリーもわかるよ、いつか」

モリーの言葉には熱がこもっていました。

モリーとの会話の後、メリーは再挑戦を決意します。

メリーは白い柵から、200m離れた地点に来ていました。

彼の視線は、200m先の白い柵を捉えています。

兄弟達は優雅に淡々とジャンプして、隊列の1番後ろに戻っていきます。

冷や汗が額からだらだらと流れた気がしました。

大丈夫、大丈夫。

できる。僕はやれる。

メリーは自身を鼓舞し、四つ足の震えを打ち消していきます。

──結果がすべてじゃない。新しいことに挑戦し続けて、やり遂げることが大切なんだ。──

モリーの言葉を頭の中で反すうし、彼は静かにかけていきました。

仕事をしつつ、メリーの様子を伺っていた他の兄弟達は、メリーが無事飛べるようにと祈りながら、子羊一頭分のすき間をあけました。

メリーは前方の兄達の対応に感激します。前足はまっすぐ柵を見据えていました。

ドクンドクンと、心臓の鼓動は一段と早くなっていました。

しかし、ここでトラブルが発生します。

メリーは足がもつれ、転んでしまったのです。

3

極度の緊張で、足の挙動がうまく働いてくれず、彼は前のめりに一回転してしまいました。

あっと、兄弟達は声を出します。

休憩中で、夢羊小屋から見守っていたモリーは思わず駆け寄ろうとします。

メリーはよろめきつつも、立ち上がりました。そして、彼は元来た道を戻っていきます。

モリーははっとします。

──メリー、君が転んだ所からじゃスピードが乗らない。だから、十分に柵と距離をとるよう、君は元の位置に戻るんだね。もう一度挑戦する為に。──

メリーのへこたれない姿勢に、モリーは胸が熱くなりました。

彼は声を荒げてメリーを応援します。

「メリー、頑張れ!」

モリーの声に反応して、メリーの兄弟達も彼の再挑戦を知ります。

遠くにいるか弱い夢羊に、彼らもまたエールを送ります。

「メリー、必ずできるわ!」と世話焼きのマリー。

「そうだ、今回で決めちまえ!」と親分肌のミリー。

「ちゃんと飛べたらバイキングのお祝いをしましょうね!」と食いしん坊のペリー。

その他、モリーの声に起き出した他の兄弟達が応援します。

メリーは涙が出そうになるのをこらえ、スタート位置に戻ります。

あの柵に勝ってから思いきり泣こう。彼はそう思いました。

スタートラインを緩やかに助走して、徐々に芝生を蹴り上げる速度を上げていきます。

依然、緊張が残っているメリーでしたが、緊張よりも感激が上回り足は前に比べ生き生きしています。

かたや、メリーの奮闘を仕事をしつつ、ドキドキしながら兄弟達は見ています。

柵から20m程になると、彼は全力疾走でそびえ立つ柵へ戦いを挑みます。

10m前に、次に入るすき間ができました。あそこから飛ぶ。メリーはグッと目に力を入れて、すき間をにらみつけます。

3m程になって、後ろ足にグッと力を入れます。鼓動の跳ね具合は、最高潮でした。

「いけー!」と、モリーが叫びます。

同時に、メリーは一番の跳躍を、今まで飛んだことのない高さのジャンプをしました。

柵を越えた先の風景は、今まで見たことのないくらいキラキラと輝いて見えます。

前足は柵を悠々と越えますが、後ろ足が柵の上部に引っかかりそうになりました。

大丈夫、いける!

彼は本能的に体をよじり、体を横向きにし、スクリューのように回転させ……後ろ足はギリギリ柵を通り抜けます。

ですが、回転したおかげで着地に失敗し、兄弟達と逆方向へコロコロと転がってしまいました。

しいんとします。

次の瞬間、わあっと夢羊の牧場中に歓声が湧き上がりました。

メリーは、心の中で白い柵に対して勝利宣言しました。

──勝ったぞ、君に。──

メリーは意識を失う前に、兄弟達の大声援を聞きました。

4

傷だらけで、満身創痍なメリーは今まで見せたことのないくらい大きく笑い出しました。

ズギズキと身体中に痛みが走りましたけれど、彼は笑い続けました。

いつの間にか、つぶらな瞳から涙が溢れてきました。

怪我が治ったら、今度は怪我をしないで飛べるようになろう。

彼は決心しました。

だって、それが本当の一人前なのだから。

そして今日も。

皆さんの夢の中で、メリーは挑戦しています。

草原をまっすぐひたむきに。

今日も走っています。

(了)

読んで頂いた方々!

雪藍(しぇーらん)さん

霧島エマさん

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