アル__2_

書き下ろし小説「アル」 第7話

(そろそろ、集客の施策を出していこうかなとか思ったり)

第1話はこちら

一行あらすじ

・アルが父親の事を思い返す。その父の事が脱出のキーらしい。

7

「お父さんの事思い出した?」沢田が言った。
「そうだな……いい人じゃなかったかもな」
不安を解消したいのか、気持ちを落ち着けたいのか。
顎髭をさすって、右膝に左足を乗せる。
キイと椅子が軋む。吐血と床の埃が混じり、部屋には薄気味悪い土の匂いがする。

目の前の狐の全身パーカーを着た少女に、俺は父の事を話していた。
柄にもなく。
「どんなパパだった?」
「俺の中では嫌な奴……そうだなあ、タバコが嫌いだった」ニヤっと笑う。
「パパイヤ!!……あっごめん」
「そう言えたら良かったよ。俺の貧しい家の親にはな」

「貧乏だったのか?」
「俺は裕福だった。父が貧乏でな。高校を出てすぐに働き始めて、零細企業の叩き上げになって、社長になっていた。だが、コンプレックスが強く、どうしても息子には医者になってほしかったのか……物心ついた頃から、地獄だった。精神的にひもじかったのさ」
「地獄……」
「天国だったら、医者なんてなってねえ。なによりもな、母が倒れた時もなアイツは帰ってこなかった。会社が潰れるかもしれないから、方々金策に走ってた事も後で聞いたんだ」
「後?」
「青空の下、火葬場の煙突から母を見送った後でな。掌に、深く爪痕が残って。奥歯がギリギリと鳴っていたんだ。噛みしめて耐えていた。アイツは来なかった」

ふうと深くため息をつく。下顎の付け根付近を触る。
「それから?」沢田が促す。
「俺は医者になった。医者になるまでは、不自由する事はなかったからな。だが、医者になってからは一切連絡を取っていない」
「沢田も前はそうだった」ふと沢田を見ると、握り拳を作っていた。

「おお」俺は聞き返す。
「沢田の場合、医者になる事は天才の私には簡単だった。でもね、国の法律で医者になるまで会えなかった。寂しかったんだ。メールすらほとんどよこさなかったし、返信もすくなかったから。研究で大変なのはニュースとか見ててもわかってたけど。両親には憎みすらしていた。……いや私の場合がこうなら、アルのお父さんの行動もひょっとすると」

「ん?」一体さっきから何言ってるんだこいつは。
「それにしても、連絡とってないんだ……でも、あなたのお父さんのおかげで、パパとママが助かるかもしれないんだ」
「はあ??」

続く

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