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書き下ろし小説「アル」 第1話

はじめに

こんにちは、はれのそらです。
こちらの垢では創作やストーリー関連について書いていきます。

今回からしばらく、くじらジオさんの為に書いた書き下ろし小説を連載形式で投稿していきます。
※元のきっかけは、私がポツッとTwitterで自作を読みたい人いる?というツイにくじらジオさんが反応し、くじらジオさんに簡単な要望を聞いた上で、一方的に書き上げた作品です。
多分、くじらジオさんはかなりびっくりされてると思う。

こういった企画をもう一回やるかはわかりませんが、頑張ります。

本編 「アル」

私はここにいる。
失った何かを求めているような、そんなぽっかりした物を十分過ぎるぐらい、厚く隠して。
でも、一体何を求めていたの……いつの間にか忘れてしまった。


1
「アル君、よくボーっとしてるけど、何か考えてきてるわけ?」
「別にいいだろ、イー。ココだよココ……んであの言葉だよ」
と、四方が灰色の壁でできている部屋にいたアルと呼ばれた少年は、天井を指差す。

真っ白なキャンバスに丁寧に透過しないような、クリームめいた灰色の壁は、つい最近、できたばかりのようだった。
ツヤ出しのニスと焚き木で燃え残った灰の焦げ臭い。
混合物の臭気が全体に漂う。
灰色の壁と匂いのせいなのか。口内に苦味が残る。
壁と同じ色の服は、毎日着替えているのに汚れてるんじゃないか。

2人とも元々の黒髪に火山灰が降りかかり、皮膚や肺に灰がいつの間にか侵入して、身体を壁と同系色に揃えてしまいそうだった。
もちろん火山灰など降っていない。
まっさらな四方の壁となんとか2人で衣食住暮らせる掘っ立て小屋。

それしかなかった。
この閉鎖的な空間が何の為にあるのか。
どうして俺達がここに連れてこられたのか。
全てが、よくわからなかった。

ここで事態が急変する。
「あたっ!」と、衝撃音の後で子供の甲高い声が聞こえた。
2人は声のする方……配膳口の近くまで走ると、そこには眼鏡をかけたショートカットの少女が尻もちをついている。
おい、正気か。あの女、可愛い狐のデザインをした全身パーカーを着てるぞ。

「いたた……。あ、あなた達に私、会いたくて……」
俺達は突然の出来事に茫然としつつ、ある事が同時によぎる。
自然に上へ意識が向く。
「お嬢ちゃん、まあなんだ……。部屋の天井見てみろって」とイーは子供をあやすように話す。

「天井?一体なにが……」
少女は首を上げる。瞳が天井に書かれた何かを捉え、ピントを合わせた時。
眉間に小皺ができ、幼い体躯はわずかに震えていた。
「そんな……どうして!」とこの空間全体に響くように、少女は叫んだ。
天井には大きな文字でデカデカとこう印字されている。
【2人死ねば、ここから出られる】

続く

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