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【 ファミコン 】ファミコンをテーマにした小説 【 コラボ小説 】

こんにちは。
はれのそらです。
今回は、レトロゲームを主体にしたコラボ小説を公開します!
今回も熊右衛門さんのプロットを元に、はれのが執筆致しました。
写真は熊右衛門さん作だよ!
もっとファミコンの事知りたい!

原作 熊右衛門さん(熊右衛門さんの原作を元に、はれのが執筆している共同制作品です)


本編 「レトロ」

※※※※※

あの夏。
部屋の中にいても鳴り響くセミの声を背景に。
友達と汗だくになってゲームをしていた。
すえた汗のすっぱい匂い。
左右に首を振る、生温い扇風機からの送風。
白とえんじの小さな機体の真ん前にして。
片手でアイスを持ちながら。
宿題って名目で集まったけど、結局夕方までずっとゲームだった。
僕らはただ夢中だった。
ずっと続くと思っていた。
そんな、あの夏。

※※※※※

「カセットのシールがはがれたんだよなあ。実にいい思い出だったんだなと改めて思ったんだよ」
「わかるわかる。昔のゲームやろうかなって、ソフトを探して家中探してさ……出てきたらボロボロになってるだろうなあ。懐かしいなあ、ファミコン」

ファミコン。

中高年代のお客達の言葉が厨房越しに聞こえる。
店の店主は普段は聞き耳など立てないが、自分になにか関りがある物なら話しは別だ。

ファミコン。

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店主の心に残った。
小指で耳の裏側をぽりぽり掻く。


注文の品を出し終えて、心の中でぼやく。


ーーそういえば、俺が小さいときもさ、あったなぁ。うんーー

店主のオヤジの心は、いつのまにか少年の夏の日を思い返していた。

ーー友達の家で環境が違っていたが、なぜかあの時は扇風機といつ床に全部溶け落ちるかわからない、アイス片手に汗だくになってゲームやってたなーー

店主のオヤジは皿洗いをし、ぷくぷくと浮きたつ泡をぼんやり見つめている。

ーー一緒にゲームやったあいつらは、今は…就職とか結婚とかしてたよな。俺は小さいけど、店の看板を背負って切り盛りしててさーー

オヤジは目を細める。刻まれた瞼の皺があの夏の思い出とことごとく乖離している。

ーーまぁ、みんな変わっちまったのなーー

皿洗いを終える頃には記憶の中の青々とした郷愁が、機体を押入れに入れてしまうかのように
ひっそりと忘れ去られた。

いつものように店の営業を続けて、懐かしい言葉を喋っていたあの中年2人を見送り……あの客がちょうど最後だったので店じまい。
店主が店の入り口に備え付けた提灯風の照明のスイッチを切ろうとした時だった。
店主より8歳年下の家内が声をかける。
割烹着が堂に入っていて、どこか上品だった。


「あのふたり、お父さんみたいだね」と、家内が微笑む。
「付き合ってた時、深夜でお酒片手ににゲームの話を楽しそうにしてたじゃない」
「よせやい、昔の話だろ。それに……」
「遅くはないって。うだうだ考える前に、もうスタートボタン押しちゃったらいいじゃない。あの時みたいに」
「あの時?」
「あれ、忘れちゃったの?あの日、お父さんが酔っててさ、ドタドタ部屋から飛び出して」
「どこ行ったんだ?」
「一階の押し入れ。そこから、間髪入れずに機体を持ってきて」
「……だったっけ」
「はぁ。忘れちゃったの!?もう。それで、カセット差し込んでドクターマリオ一緒にやったじゃない」
「……ああー!」と、オヤジはペチンと額を叩く。
酒は理性を溺れさせて、本能が出張(でば)ってくる。事件にもなるような問題が起こったりもするが、ある意味では本心をあらわにするとも言える。

ーーなんだよ、やっぱりやりたかったのかーー

店の片付けを終え、2人は自宅へ帰り、居間のちゃぶ台を囲みつつほうじ茶をちびちび飲んでいた。
寝巻き姿で後は寝室で休む。
そんな時に、オヤジはぽつりと言った。
「あいつらに手紙でも出すか……今はメールか」
「どっちでもいいんじゃないの。子供は独立してるんだし……電話もしないでいきなり玄関のチャイム鳴らしちゃったら?なになに君、遊びに来ましたって」
「アハハ!……そういえば、そんな時もあったな」
「えっ、冗談で言ったのに」家内が驚く。


「俺達の小さい頃は、学校で口約束だけしてさ、そのままご飯食べて家まで直行だった」
「へぇ。せっかちなのね」
「合理的って言ってくれ。ひどい時なんか、友達の家でお昼もらったりもしたなぁ」
「まあ、ひどい。迷惑ね」
「……だな。他人様に料理出して飯食ってる身としては……よくねぇな。……今度はご馳走してやらないとな」
「たくさん作ってあげなさいね」
「わかってるよ……はは。そうだな。とびきりの、こしらえないとな。あいつら、待ってろよ」

オヤジはにんまりと笑い、準備を始めた。

その時の心持ちはとても口では言い表せなかった。
埃をかぶって置き去りにしていた思い出がキラキラと。カセット内のセーブデータが消えたとしても、端子部分に思わず息を吹きかけてしまうような。

童心とも言えないし、成熟しきってるわけでもなく、ただただ開店前の駄菓子屋の前で友達とたむろっているような。

清新なまでに懐かしかった青春が。

彼の中で。

たった今始まった。


(了)

おまけ

実はこの話と若干つながってます。よかったら読んでください。


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