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【海外ゲーム】拾ったスマホで他人になりすますゲームで『赤い部屋』と再会した【翻訳解説】

 拾ったスマホで他人になりすます…そんな犯罪級の体験ができちゃうゲームが、海外産ホラゲ「Sara  is missing」です。
 2016年にリリースされ、iPhone・Androidで無料プレイできますが、残念ながら日本語対応はしていません。

 本記事では、このSara is missingについて翻訳しながらざっくり解説するとともに、プレイ中になぜか遭遇してしまった日本の小ネタについて紹介します。


他人のスマホに早替わり

 ゲームを始めると、まず操作するのはスマホのロック画面。このゲーム、自分のスマホがそのまま誰かのスマホになったような感覚でプレイできるのが特徴です。
 プレイには、スライドでのロック解除から、メールの確認、アルバムの写真閲覧、チャットの送信、電話の発信に至るまで、いつものスマホ操作がそのまま取り入れられています

ゲーム中の筆者のスマホ。いかにもありそうなスマホ画面。

 ロックを解除しデータが復旧すると、人工知能IRIS(逆から読むと…?)との会話が始まります。スマホの持ち主は「Sara」という人物のようですが、IRISにはプレイヤーがSaraではないことがバレているようです。

ゲーム内の人工知能IRISとのチャット画面。日時表示や電池残量など細部まで本物のスマホのよう。
Saraさん、おかえりなさい。
このスマホは損傷を受けたようで…
…あなたはSaraさんではないようですね。
お会いしたことありますか?
冒頭のIRISとの会話。(筆者翻訳)


 IRISに返事を書いてみましょう。返信の言葉は選択肢式ですが、キーボードを表示させていかにも本物のチャット画面のようにすることも可能です。
 この場合も、自由に返事が書けるわけではなく、予測変換欄に表示されている選択肢に沿った言葉に勝手に変換されてしまうのですが、雰囲気が出るので私個人としてはこちらの方が好みです。

キーボードを表示させたチャット画面。文字を打ち込むと、予測変換一番左の文字列に自動変換される。
IRISにSaraが誰かを尋ねると、このスマホの持ち主であることを写真付きで教えてくれる。

 IRISからスマホを持ち主のSaraに返すように言われたものの、プレイヤーはSaraがどこにいるのかもわかりません。しかも、Saraが最後に残した動画を見ると、どうやら彼女の身には危険が迫っていた様子…!

IRISと会話を続けていると、「Saraさんが危険な状況下にいた可能性があるので確認してほしい」と動画が送られてくる。この動画を見ないと話が進まない仕様。

 この動画以降失踪してしまったSaraを見つけ、スマホを返すため、プレイヤーはSaraの居場所を探る手がかりを求めて、彼女のスマホの中を覗き見していくことになります…。(本当は警察に届け出た方がいいと思うのですが、そこは、ゲームです笑)

日常の延長、だからこそ怖い!

 このゲームの怖さは、やはり私たちが日々使うスマホが舞台となり、その延長線上で話が展開されている点です。ここでは3つの視点で、このゲームのホラーなポイントを解説していきます。エンディングに絡むネタバレがガッツリありますのでご注意ください。

AIの暴走

 Sara is missingにおける大きなテーマのひとつが、AIの存在です。本作においては、スマホに搭載されたAIが「持ち主に忠実なアシスタント」として、仮に持ち主以外が殺される結果を生む状況であっても、「持ち主ファースト」を貫き通す様が不気味に描かれています。
 これまでも、AIの暴走をテーマとして数多くの作品が発表されてきましたが、(特に昔のものは)「機械に搭載されたAIが制御不能となり、機械自体が殺戮兵器と化す」といった展開のものが多かったような気がします。一方で本作は、スマホ自体はいつものスマホのままにも関わらず、AIが持ち主ファーストに基づいて自動返信をすることにより、特定の人物の殺害を誘発するシーンがあります。AIとの会話や自動返信が当たり前になった現代においては、このような展開はもはやフィクションではありません。

殺人鬼と会話。SaraとSaraの友人のどちらを殺すか、10秒以内に答えるよう聞いてくる。
返事をしないままでいると、自動で友人の名前が送信されてしまう。


 加えて、殺人を犯しているのがあくまで人である点も、これまでの作品とは趣が異なります。適職診断から医療補助まで、さまざまななシチュエーションで、人間がするべき行動についての「判断」を任せることが増えてきている中で、このストーリーもじわじわと現実味が増してきています(このゲームがリリースされたのが2016年であることを考えると、余計に怖い)。
 余談かもしれませんが、本作に登場する人工知能IRISはIntelligent Recognitive Iconolatry Systemの略です。ここに、Iconolatry-偶像崇拝という言葉がサラリと入れられている点も、このゲームの気持ち悪いところかもしれません。

乗っ取り体験

 タイトルにもあるように、このゲームではスマホを乗っ取って他人のふりをする、という選択が可能です。
 Saraの居場所を探すため、チャットに残された連絡先にメッセージを送るシーンがありますが、この際に、自分がSaraではないことを隠し続けることもできるのです。これは普通の乗っ取りと同じで、物珍しい点はないと思われる方も多いかと思いますが、本当に怖いのは、実際にプレイすると「いかに簡単に乗っ取りができてしまうか」がわかるところかと思います。

Saraの友人から連絡。ここで、「I'm not Sara」を選ばないと、他人であることを隠したまま会話が進んでいく。

 スマホのチャットであれば、話し相手が赤の他人になっていてもバレない…プレイヤーにその悪知恵をあえて発揮させるのもこのゲームの怖さです。

電話コワイ現代人向け

 近年では人気が下降気味な脅かし系のホラーですが、このゲームではかなり効果的に脅かしを使っているように思います。突然出てくる真っ赤な画面、グリッチノイズなど、ホラー感を狙った演出もありますが、(個人的に)一番怖いのは電話が突然かかってくる場面。着信音もドキッとしますが、「これ出たらどうなるの?」というドキドキもある場面です。

突然かかって来る電話の画面。切りたくなる。

 正直なところ、普通に生活してても突然電話かかってくると怖いですよね。もっと言えば、電話自体苦手な人も結構多いのではないでしょうか。…その気持ち、わかります。
 そんな現代人の電話恐怖症をうまくついた脅かし要素です。


ところで『赤い部屋』って?

 ここまで記事を読んでくださった方は、気になっていることがあるかと思います。…『赤い部屋』、とは…?

あなたは 好きですか?

 ゲームを進めていると、Saraのチャット履歴に”The Red Room”と呼ばれる、いわゆる都市伝説の話題を見つけます。
 チャットを送ってきた友人によると、「『The Red Room(赤い部屋)』ってウェブサイトにアクセスした人は変な死に方をするらしい。そのサイトにアクセスすると、パソコンでもスマホでもバグって、ポップアップが出るようになって、頭おかしくなるらしい」とのこと。
 さらに、その「赤い部屋」に関連するらしい動画を再生すると、ホラーテイストな映像が流れたのち、真っ赤な画面に「あなたは 好きですか」という日本語が声とともに表示され、そのままスマホの画面がおかしくなってしまいます。

「赤い部屋」動画ののち、バグってしまったスマホ。画面には「あなたは 好きですか」の文字が透けて見える。

 そこに登場したIRIS。「The Red Room」とはDeep Web(ダークウェブ)上のサイトで、双方向型での殺人や拷問を見たり参加したりできるサイトであることを教えてくれます。

元ネタは半分日本

 さて、この一連の話ですが、半分は日本のFlashホラー『赤い部屋』が元ネタとなっています。2000年代、Flash黄金時代に流行った知る人ぞ知る有名なネタの一つです。(参照→https://dic.nicovideo.jp/t/a/赤い部屋)
 このネタのストーリーも、いわゆる都市伝説型。「ネットを見ていると突然、「あなたは 好きですか」と書かれたポップアップ(ゲームの画面に表示されたものと同じ画像・声)が現れることがある。このポップアップを消した人は、死んでしまう」というもの。「赤い部屋」と言われる所以は、「死んでしまう人が多量出血することにより部屋が真っ赤になる」ことから。
 しかもこのFlash、見終わると、話の中に登場した「あなたは 好きですか」と書かれたポップアップが自分のブラウザにも表示されるという、恐怖のおまけ付きでした。しかしこのポップアップも、近年は広告をブロックするソフトの発達により制御されてしまっていました。さらに2020年にはAdobe Flash Playerのサービス終了により、この「赤い部屋」自体も過去のものとなってしまいました。

 そんな懐かしのネタが、まさかの海外インディーズホラーゲームに登場。ゲームのストーリーも全然日本には関係なく、そもそもゲーム自体も日本語訳されていないことからも、なんとも異色のネタと言えます。Flashの時代が過ぎた後に、海外のディベロッパーがこのネタについて調べたと思うと、何だかちょっとエモい。

 ちなみに元ネタのもう半分は、実際の都市伝説であるRed Roomであり、IRISが教えてくれたとおり、殺人や拷問に参加できる「Red Room」というサイトがダークウェブ上にあるという噂です。Red Roomという名前の由来は、murder(殺人)の逆さ言葉とする説もあるそう。シャイニングかな…?(下記リンクは英語です)


スマホに潜む恐怖を引き出したゲームは他にも!

 今回ご紹介したSara is missingの開発者であるKaigan  Games はこのゲームのリリースを皮切りに、次々にスマホを舞台としたホラーゲームを生み出しています。

 特に第2作のSimulacraでは、謎解き要素が増強され、スマホの隅から隅まで覗き見するプレイが楽しめます。併せて、動画や画像もマシマシ。本文では触れませんでしたが、この実写動画もまたリアルなんです…マレーシアに拠点を置くディベロッパーのたちが自分達で撮影しているのか、微妙に訛りがありますが、演技が上手いのであまり気になりません。

 とはいえ、こうしたゲームに手を出す前に、まずはSara is missingをプレイしてみるのがおすすめです。無料ですし、1ルートは30分ほどで楽しめますので、導入にはピッタリです。

 この記事を読んで、少しでもこのゲームに興味を持ってくださり、英語版にチャレンジしてみようと思ってくださる方が一人でもいらっしゃれば幸甚です。

 読んでいただきありがとうございました。

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