【超短小説】年雄と10円

年雄はお茶を買う為に、小銭入れだけを持って自動販売機に向かった。

140円のお茶。"高くなったな"と思いながら、150円入れた。
その場で一口飲む。

お茶の味に引っ張られたのか、お菓子が食べたくなった。

年雄はコンビニに向かった。

コンビニの前で年雄は気付いた。

"お釣り。10円、自動販売機に忘れた"

年雄は悩んだ。
もうコンビニの前まで来てしまったから、10円くらい諦めようか、それとも戻って取りに行くか。
少し考えて、年雄は自動販売機に戻った。

たかが10円。でもお金はお金。円には縁がある、と聞いた事がある。
大事だ。

自動販売機に戻って、お釣りの小窓に指を入れる。
"あった"そこで油断した年雄は、10円を取り出し損ね、自動販売機の下に10円を落としてしまった。

自動販売機の下を覗くと、結構奥まで10円は入り込んでいた。

年雄は棒を探したが、見つからない。

年雄は考えた。"少し離れた所に、大きめの公園がある。そこに行けば、木の枝とか落ちてるかも"

年雄は公園に向かった。

たかが10円の為に。でも大事な円。円は縁。

公園に着いた年雄は、ちょうどいい木の枝を見つけた。
もう一度自動販売機に戻り、自動販売機の下から木の枝を使って、10円を取り出した。

取り出した10円は、泥だらけになっていた。

年雄は仕方なく、もう一度公園に戻り、洗う事にした。
公園に向かう途中、家で洗った方が近かった事に気付いたが、途中まで来てしまっていたので、諦めて公園に行った。

公園で10円を洗った。"もう離さないぞ"
ようやくお菓子を買いにコンビニに行こうと思った時、公園の近くで小さな駄菓子屋を見つけた。

年雄は少し嬉しくなった。
コンビニはやめて、駄菓子屋に入った。

年雄はカゴに、うまい棒やフルーツ餅、蒲焼さん太郎やヨーグル、と子供の頃を思い出しながら入れていった。

レジに並ぶ。

前に小学生くらいの子供が1人。
泣きそうな顔で何かを探している。

「あれ?あれ?おかしいな」

駄菓子屋のおばちゃんが子供に尋ねる。

「あと10円。ないのかな?」

どうやら、小学生は10円足りないらしい。

年雄は思った。

"俺のあの10円は、この小学生に使ってもらいたくて俺をここまで誘導してきたんだ"

年雄は10円を小学生に渡した。

「これで買いなさい」

泣きそうな小学生は、恥ずかしそうに会釈をして帰って行った。

"円が求めた縁"・・・だったのかな。

浜本年雄40歳。

会計で10円足りず、蒲焼さん太郎を諦めた。

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