【超短小説】年雄とPK
年雄はテレビでサッカーの試合を観ていた。
試合は熱戦。
技術と魂のぶつかり合い。
両チーム譲らず、遂にはPK戦に。
決まるはずの一球。決めて当然の一球。
だからこそのプレッシャー。
一球の重み、責任。
年雄は一度だけ感じた事がある。
それは、中学3年の頃の球技大会。
年雄のクラスは、サッカー部のレギュラーが4人もいたおかげで、決勝まで行く事ができた。
決勝戦は2対2の同点で時間切れ。
PK戦で優勝を決める事になった。
先にサッカー部4人がキッチリ決め、あと1人となった所で誰が蹴るか揉め出した。
優勝が決まった大事な一球を、全校生徒が見てる前で、女子が見てる前で、蹴りたい奴なんてサッカー部以外にいない。
「お前が蹴れ!」「お前だろ!」と譲り合い。
そんな中、年雄の名前が挙がった。
年雄は部活キャプテンをしていて、県大会の成績もよかった。
ただ、バレーボールだ。
サッカーは足。バレーは手。
「なぜ俺なんだ!」と思ったが、時間も無く仕方なく引き受けた。
この一球で決まる勝敗。
全校生徒の目。
女子の目。
一球の重み。責任。プレッシャー。
年雄は思いっきり走り、ボールを蹴り上げた!つもりだったが、足は地面をえぐり、ボールのハジをかすめた。
ボールはコロコロとキーパーの前に転がり、優しくキャッチされた。
時が止まった。
色も消えてモノクロに見えた。
年雄は卒業までイジられる事になる出来事だった。
浜本年雄40歳。
あの時を思い出し、PK戦でボールの前に立つ選手を観て、素直に尊敬する。
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