【超短小説】年雄、あるか見てきて

年雄が通っていた高校は、山の上にあった。

だから通学するのに、急な坂を登らなくてはいけない。

毎日。

さらに部活生はダッシュで登る事が義務付けられていた。

毎日。

そんな坂を1番下まで下った所に、ファンタオレンジのある自動販売機があった。

年雄の先輩は年雄に「ファンタオレンジあるか見てきて」とよく言った。

年雄はダッシュで坂を下り、ファンタオレンジがあるのを確認して、ダッシュで坂を上り先輩に「ありました」と報告した。

すると先輩は「あった?じゃあ買ってきて」と言った。

年雄はまたダッシュで坂を下り、ファンタオレンジを買って、ダッシュで坂を上り「どうぞ」と先輩に渡した。

それを見ていた他の先輩が「俺の分もあるか見てきて」と言うので、年雄はダッシュで坂を下り、ファンタオレンジがあるか確認して、ダッシュで坂を上り「ありました」と報告した。

先輩は「じゃあ買ってきて」と言った。

年雄はダッシュで坂を下り・・・

年雄は1日に何度も坂を往復した。

当時はこれをイジメと言わず、筋トレと言った。

実際、ジャンプ力は上がった。

体力も。

浜本年雄40歳。

今もファンタオレンジを見ると、あるかどうか確認してしまう。

ふぅ。

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