【超短小説】年雄と小粒な嘘

年雄は小粒な嘘をつく。

それは、職場の先輩との会話でよくつく嘘だ。

害はない嘘。そう思っていた。

先輩は映画好きだ。

だから、先輩との会話は映画の話がほとんどだ。

年雄は映画好きだが、先輩ほどではない。

でも「映画好きですよ」と言ったばかりに、先輩は映画の話ばかりしてくる。

話をしていると、だんだん先輩の趣味が分かってくる。

年雄とは真逆の趣味。

真逆の感性。

でも年雄は小粒の嘘をつく。

全く面白いと思わなかった映画でも「面白かったな!」と先輩に言われると「そっすね」と嘘をつく。

「あの俳優の演技最高だったな!」と言われ「そっすね」と嘘の返事。

害の無い嘘のつもりだった。

年雄はただ、先輩と映画談義で揉めたくなかっただけだった。

小粒の嘘は回数を重ね、いつしか大粒となり年雄に襲いかかる。

「あの映画まだ観てないの!?年雄なら絶対気に入るって!」

興味のない映画を観に行く。

「どうだった!?最高だろ!?」

「そっすね」

「今度の休み、一緒に観に行こうぜ!」

「そっすね」

自分で大きくした小粒の嘘。

「そっすね」の便利さと副作用。

映画は好きだが、好みが違う。

なんなら服のセンスも違う。

害の無い嘘。そんなもの無いのかもね。

浜本年雄40歳。

そんな中でもたまに感性が重なる時がある。

なぜか倍楽しい映画に感じる。

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