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Scarborough Fair(連作29首)

作品

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Scarborough Fair_ページ_2

Scarborough Fair      のつちえこ

たましいはまじなう言葉にさらわれる軽やかさでいて すぐ風は来る
このシャツを針も持たずに縫えたならあなたではない人を選べた 
その針を指に刺しては透明な血がふくらんでこぼれて落ちる 
白栲の洗いざらしにやわらかく手に滑る服のごとくあなたは
その爪に泥の食い込む跡があり黙々と当然の労働
色のないスープに浮かぶ油の円をつなげては割り割ってはつなげ 
今日何があったかを聞く毎日の短い返事に少しずつ飽き 
手を触れて夜のあなたに岩肌をおもう身体のすみのすみまで 
世を知らず生きることなど許されず昔語りを聞いて眠った
狼のひとりたまらぬ遠吠えを夢に見ないですぎる水曜 
口角を上げて話せば朗らかな人とのたまう喩のつまらなさ 
不都合は口に苦くて良薬のごとく染み入り霧立ち込める
紫をやがて失う空見えて波打ち際に跳ね上がる魚
泡立った水面に顔をうつしゆき吐きだすようにばらけてみたい 
いつまでも咲かない花を待ちながら繰り返される生と死と墓
行き違うばかりの部屋はしんとしてどれも呼びかけは冗談よすべて
しどけなく身を横たえる野生馬と深い闇辺に眠る覚悟を 
童謡がしずかに歌う恋の仲 男が娘を誘うしきたり 
へだたりは何に生まれてくるものか今日見過ごした助詞もうひとつ 
井の中の蛙の話を聞いている 正しいことがしたかったあなたの 
新しいことは言えずに砕きゆく言葉のかけら尖って傷む 
赤紙をもらったような顔をして 戦争になんか行ったことなくて
お祈りに閉ざされてゆく意味のこと打ち明けられず陽は胸に落つ 
あきらめを手に余すから木枯らしを脚に引き寄せしばし歩いた 
その胸に夜たちこめる呼吸音あらげたことも埋め込んでいく 
あやまちを遡る水堰き止めていま感情はさらりと乾く 
涼やかにセロリの匂い鼻に抜けさよならよりも短い別れ 
うやむやに入り陽葬る帰路の先かすれても声、たしかな声する 
市へゆく人へさらりと言付ける「パセリの匂いだけを知らない」

あとがき

"Scarborough Fair"はイギリスの伝統的なバラッドで、私は小さい頃にマザーグースで知りました。サイモン&ガーファンクルによって世界的に有名になったらしいです。

今回アップしたこの作品は、もともと2019年に某新人賞応募用に作った50首連作でした。しかし踏ん切りがつかなかったので、賞には送りませんでした。
そこで2020年に結社の月詠として隔月で10首ずつ送り、そこから結社の賞である「かりん賞」応募作品として提出することに決めました。
(かりん賞は、結社誌に掲載された過去一年間の月詠から30首を再編した連作で応募できます)

ところが2020年に応募した連作「行(ゆ)きなさいよ」で、ありがたいことにかりん賞をいただき、上記の計画はいったんなしに。
別の計画もあったのですがタイミングを逃してしまったので、今回29首の作品としてアップしてみた次第です。作品のタイトル、もうちょっと違うやつを考えてたんだけど忘れたな。

組み直すと連作として密度が低いというか、元々50首を想定して作っているので物足りなさを感じますね。ストーリーぽいものがあると、流れって大事なんやなあと思います。何はともあれこれからも頑張って作ります。
(もし良ければいいねもらえるとうれしいです)

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