短読17 瘡蓋へ爪を差しこむ流星がぴうぴうと吹き荒るる残夜に
はじめに
17首目は、夏迫杏さんの歌です。ご投稿ありがとうございました。イメージの二重性から歌を掘り下げました。どうぞよろしくお願いします。
まず読んで思ったこと
さらに読む
かさぶたを剥がすときに、どう爪を差し込んでいるかの説明がうまくできなかったのですが、爪をひっかけているというよりはかさぶたに対して潜り込ませるようなイメージで読みました。かさぶたに差し込んで、爪が入り込んでいくイメージと、流れ星が夜空に吸い込まれていくイメージが並べて置かれることで、二つの景色を重ね合わせるような作りになっていると思います。違うものを取り合わせながら、そのイメージを二重にするみたいな。短歌で比較的見る「心の様子+(関係なさそうに見える)ある一場面」という作りともまた違う感じだなあと思いました。
〈瘡蓋〉〈流星〉〈残夜〉と、荘厳な感じの言葉が並んでいて、カッコいい感じがする。そういう言葉の選び方は、かさぶたに爪を差し込むことや〈吹き荒るる〉ようなちょっと凶暴にも見える行為にも負けない重さのバランス感覚の現れかなあと思います。やってることはかさぶたを剥がそうとしているだけなんですけど。でも、自分の身体に対して痛みを伴うようなことをするのってやっぱり凶暴なことだろうし、それが下の句の景色によって華やかだけど不穏さもともなう、この後どうなってしまうのか、という期待感も煽ってくれるように思いました。
文語旧仮名という前提で読んだので、〈ぴうぴう〉は「ぴゅうぴゅう」と読んでいますが、「ぴうぴう」でも結構可愛いなと思う。〈ぴうぴう〉というちょっと可愛い言葉が置かれることで、全体が重たくなりすぎないような感じがあり、一首通じて、すごく配慮のある歌だなあと思いました。なんというか、歌の雰囲気とも相まって「私がこの(私の)世界を司っている」みたいな感覚もあるのが面白いです。
企画趣旨はこちらから
https://note.com/harecono/n/n744d4c605855
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?