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無精子症が発覚した(前編)

こんにちは晴光です。前回は僕たち夫婦が不妊治療を始めた時の話でした。

奥さんはストレスを感じながらもクリニックで通院し、様々な検査を進めていきました。徐々に奥さんには問題がないことが分かってきて、私の方も検査してみようという流れになりました。

この検査で僕の精巣には精子が無いこといわゆる無精子症が発覚します。今回はそんな日の話です。無精子症の発覚は自分の人生の中でも一番衝撃的な出来事で、この日を境に僕の人生観が変わった人生の岐路的な出来事です。

無精子症についてはネットを調べれば情報は集まりますが、無精子症が発覚した方の心境はあまり拝見することがありません。自分も匿名だからこそ体験談を書くことができますが、周りに公表できるかといったらやはり嫌です。無精子症が発覚した時は情報を知りたくて必死にネットで検索したので、もし僕のように苦しむ人がいたらその方の何かしらのお役に立てればと思います。


精液検査

精液検査に対して僕の了解を得られたことを奥さんがクリニックに伝えた日に、クリニックから精液検査キットを渡された。キットというからには色々入っているのかと思ったが、計量カップに蓋がついたようなものと精液採取時の注意が書いてある紙を渡されただけだった。シンプルすぎる検査キットに拍子抜けした。


後日自宅でひっそりと精液採取を行った。僕が想像していた精液検査はクリニックの小部屋で緊張しながら、精液採取するものだと思っていたので、自宅で手軽にできることは気持ち的に楽だった。採取自体も尿検査と同じ要領で容器の中に精液を入れるだけなので特段苦労することはなく採取ができた。

採取した精液をなるべく良い状態で見てもらいたかったので、容器をタオルにくるみ、急いでクリニックに提出しに行った。受付の人によると検査結果はすぐに出るわけではなく、3日後の奥さんの通院時に教えてくれるということだった。クリニックからの帰り道は初めて自分も不妊治療に貢献した気がして、気分が高揚していたのを覚えている。


様子が変

3日後、奥さんの通院帰りと自分の仕事終わりのタイミングが重なったので、奥さんと駅で会うことにした。夕方の駅は割と人通りが多かったが、奥さんをすぐに見つけることができた。20mくらい離れたところから手を振ると向こうも気がついて手を振り返す。小走りで奥さんのもとに行く。「お疲れさま!」仕事帰りでちょっとハイになっている僕に対して奥さんは少しぎこちない笑顔で返事をした。「どうだった?」という僕からの問いに「うん・・疲れた」と奥さんは答えた。不妊治療での通院は精神的にも肉体的にもストレスが大きいし、電車で4駅ほど離れているクリニックに通っていることを考えると疲れて当然だ。駅の近くの定食屋で食事をしようと思っていたが、今日は家でゆっくりしようということになり帰宅した。

いつも帰宅すると奥さんが笑顔で迎えてくれるのだが、この日はなんだか重い空気が流れていた。相当疲れているからなのか、医者から嫌なことを言われたからのか、奥さんの変な様子の原因について考えていると、奥さんから話を切り出してきた。「あのね・・あのね・・」言葉を詰まらせながら繰り返すのは言い辛いことがある時の奥さんの癖だ。「今日病院で検査結果受け取ったんだけど・・これ・・」奥さんから手のひらサイズの小さな紙を渡された。この紙を見た時から、ただただ幸せだった結婚生活が終わり、今でも僕を苦しめる悩みが始まった。


手のひらサイズの絶望の知らせ

奥さんから渡された手のひらサイズの紙には1週間前に行った精液検査の結果が書かれていた。精液量は6.4ml、その下を見ると0の数字。何が0なのか調べるために視線を移す。そこには「精子数」の文字が書かれていた。ドキッと心臓が大きく脈をうった。もう一度紙を見る、結果は同じだ。紙を見てから10秒程経過した。「奥さんの変な様子」「不妊」「精液検査」「精子数0」頭にある様々な情報が繫がり、意味を理解した後、体全身に不快感が広がる。「どういうこと?」「精子がない?」「まじかよ」「え、自分のせいで不妊?」「今まで奥さんが辛い思いしてたのも自分のせい?」「申し訳ない」パニックになり、色々な言葉を次々に発し続けた。一番強い思いは「申し訳ない」だ。


数か月、もしかしたら結婚してからずっと間奥さんは自分のせいで子どもができないと思っていたのだ。そんな奥さんを尻目に僕は能天気に過ごしていて、「あせらなくても大丈夫!きっといつかできるよ!」なんて言っていたのだ。奥さんが苦しい思いをしていたのは自分のせいなのに。

僕がクリニックを間違えたのに、開き直ってケンカになったこと、何度かクリニックに付き添ったり、一回精液検査をしたくらいで良い気になっていたこと、今まで自分の行動が恥ずかしいし情けない。奥さんに何度も何度も謝った。

後半に続く

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