見出し画像

無精子症が発覚した(後編)

こんにちは晴光です。前回は精液検査の結果、僕が無精子症だということが発覚した話でした。

今回は無精子症が発覚した日の出来事(後編)です。この日の夜は人生で一番長く辛い夜でした。暗い内容の話ですが、暇つぶしに読んでいただいたり、僕のような経験をされた方の気持ちを考えるときの参考にしたりなどこの記事が何かしらの役にたってくれれば幸いです。

動転のち、検索

精子数が0というあまりにショッキングな事実に頭と心がパニックになり、10分ほどオタオタした後、めまいを起こしてソファーに倒れた。倒れている間にも奥さんに対して申し訳ない気持ちと精子が0というのは嘘であって欲しい気持ち、未来への不安など様々な思いや感情が波をうっていた。ソファーで寝ながら奥さんに「本当にごめん。本当ごめん」と繰り返し言い続けた。

10分ほど休み、少し気持ちが落ち着いた後に僕が始めたのはネット検索だった。自分で勝手に気を動転させてしまったが、精子数が0というのは珍しい話じゃないかもしれない。治療でどうにかなるかもしれない。そんな希望を持って「精子 検査 0」と入力すると「無精子症」という単語が出てきた。

どうやら僕は「無精子症」というものらしい。今度は無精子症について調べはじめた。無精子症については色々な病院のサイトで分かりやすく説明が書かれており、僕は食い入るように書かれている情報を読み込んだ。

無精子症について分かったこと

無精子症について分かったことをごく簡単にまとめると以下の通りだ。

〇無精子症の男性は100人に1人くらいの割合でいる。

〇無精子症には精子は作られているが精子の通り道が塞がってしまっている閉塞性無精子症と、そもそも精子が作られていない非閉塞性の無精子症の2種類がある。

〇閉塞性と非閉塞性の比率は2対8で圧倒的に非閉塞性が多い。

〇閉塞性は手術で精子の通り道を作ることで、精子を体外に出せる可能性がある。つまり自然妊娠も可能である。

〇非閉塞性は精巣を開き精子を探す手術(TESEと言われている)があること。精巣を開いて探しても精子が見つかる確率は3~4割程度である。

〇どちらにしても現段階では薬物による治療はできない。

ネットで調べる前に奥さんから「お医者さんからは今度の診察で説明するから、自分で調べない方がいいと言われたよ。」と助言されていたのだが、自分が直面している問題はどういったものなのか知りたい気持ちと、絶望的な気持ちを変えてくれる希望溢れる情報を求めて必死に調べた。

しかし検索すればするほど、知りたくなかった情報ばかりが出てきて精神的にどんどん追い詰められていった。特に薬による治療はできないという言葉には胸をドンと殴られたようなショックを受け、まためまいを起こして倒れてしまった。

唯一の希望は僕が閉塞性無精子症の可能性も0ではないということだ。閉塞性無精子症であれば精子自体は精巣内で作られているので、手術で閉塞している精子の通り道を開通させたり、精子を取り出したりして、精子を手に入れられる可能性は高い。そうすれば奥さんと僕と遺伝子で繋がった子どもを授かることができる。

しかし無精子症患者のなかでも閉塞性は2割。野球で打率2割のバッターが出てきたらヒットは期待されない。過度な期待は僕自身を追い詰めてしまうかもしれないが、自分が閉塞性の無精子症患者であることを心から願った。


情報は集まったが、何もしないでいると不安に押しつぶされてしまいそうで、もっと良い情報は無いかと何度も何度も調べた。この時はもうパソコンの画面しか見えていなくて奥さんが何をしていたとか、どんな表情をしていたかは分からない。冷静になった今奥さんの立場を考えると、いたたまれない気持ちで僕を見ていたのかもしれない。

4時間ほど調べて続けていたが、明日の仕事を考えると寝た方がいいなと思い、さっとシャワーを浴びてベッドに入った。

ひたすら辛く眠れない夜


ベッドに入ったもののこの日は全然眠れず、生きてきた中で一番長く感じた夜だった。暗く静かな部屋で目をつむると無精子症が分かった時の様々な気持ちが押し寄せてくる。隣で寝ている奥さんを見ると、申し訳ない気持ちが溢れてくる。検索して分かった現実が辛い。もし本当に自分に精子がなかったら、2人の間に子どもを授かることができなかったら・・どんどんマイナスな方に思考が流れてしまう。

眠れない。辛い。苦しい。

心苦しい気持ちと不安に耐えてとじっとしていることはできなかった。かといって奥さんに不安をぶつけることもできない。結局不安を紛らわすために30分おきくらいに起きては無精子症のことを調べ、希望が持てる言葉を求めた。何度も同じ単語を検索した。そして何度も何度も現実に打ちひしがれた。寝っころがっても辛い。起きていても辛い。ひたすら辛くて長い夜だった。


明けない夜はない


辛さに打ちひしがれた夜だったが、部屋の窓から見える真っ暗な夜空のトーンはだんだん明るくなっていった。昼間にはほとんど気にならない新聞屋のバイクの控えめなマフラー音が静かな住宅街に響きわたる。ひたすら辛く長い夜がようやく終わった。


この後も何度か不安で眠れない夜があったが、無精子症が発覚したこの夜の経験が僕を少し強くしてくれ耐えることができるようになった。「明けない夜はない」という金言があるが、それは夜が明けるのを体験したから言えることだと思う。

自然現象の夜は時間さえたてば朝を迎えることができるけど、僕たち夫婦の気持ちの夜は何時くらいになっているんだろうかと時々思う。早く夜が明けて欲しいなとこころから願う。


2回に渡って無精子症が分かった時のことを書きました。今後はこの日以降の僕の心境や僕なりの無精子症との向き合い方を書いていきたいと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?