アイドル部がYouTube上で跳ねない本当の理由とにじさんじ、ホロライブとの戦略差

はじめに


最近のVTuber界、俯瞰で見ると結構アツいですよね。にじさんじはパワプロ大会の大成功に、パ・リーグコラボがあったりフェス開催が決定しましたし、ホロライブはENの爆発的ヒットに日清コラボなど今年はyoutube内外両方での活動の広がりを感じます。
他のところもキズナアイはJRAや東京メトロの広告に出てますし、神椿(花譜)は映画やアニメの主題歌、テレ朝番組のOP、ED担当してますし、動く城のフィオなどのVR勢もComicVketを成功させたりで益々活気づいていくことでしょう。(敬称略)

その活気づいた界隈の流れにあまり乗れていない箱があります。それは2018年5月頃から電脳少女シロの後輩として、そしてにじさんじSEEDs1期生やホロライブ1期生、あにまーれとおよそ同時期にデビューしたアイドル部です。

私自身は当時からどの箱もざっくりと見ており、アイドル部ではカルロ・ピノを、にじさんじでは樋口楓を、ホロライブでは白上フブキを浅く推してきました。私としてはどの箱も満遍なく波に乗っていくことが好ましいのですが現実はそうなっていません。
いくら色々あったからと言っても他の箱も色々あるし最近はコラボしているし流石に跳ねなさすぎじゃない?と思ったわけです。これはもしかして跳ねない明確な理由が存在しているのでは、とも。
今回はその理由を企業戦略差とその影響の面から考察した内容となります。
まずは2018年に戻って考えていきましょう。

2018年のブランディングとその「影響」

以下の記事は2018年後半にあったVTuberコラボの記事です。

この時期は2018年前半がデビュー時期のライバー達が「とにかくなんかやろう!」と頑張っていた頃だったと記憶しています。
ですので彼らは箱も個人も関係なく企画やコラボをして、そして多く参加していたSEEDs1期、ホロライブ1期、あにまーれ、ハニスト、個人勢間で一種の繋がりが形成されていきました。

で、記事を見て気付くと思うのですがアイドル部がいませんね。
それもそのはず、当時アイドル部はこういった外部コラボに殆ど参加していないのです。

これが第一の企業戦略差となります。
企業としてはブランディング(世界観や希少性などの維持のためと思われる)の一環としてみだりにコラボに参加させない方針だったのでしょう。
なんにせよ他の企業が許可していたコラボの流れに参加しなかった。
結果として上記の面々間で形成された繋がり導線はアイドル部には伸びませんでした。つまり「XXとコラボしてたOOの配信今やってるから少し見ていこうかな」という流れが非常に生まれにくい状態になったわけです。
他の箱や個人が獲得した新規視聴者は上記の導線上を移動するわけですからアイドル部への流入は鈍化していきます。
2019年、2020年前半においても外部コラボに消極的であったため導線が形成されず流入鈍化が持続的に働いていたことになります。

では最近はどうかと言うと企業戦略が転換され外部コラボを行うようになりました。
ただ、コラボを行う相手は当時のデビュー時期が近い人物です。
これが最近でも事態が好転しない理由になっています。
表現が悪いかもですが当時のデビュー時期の人達は既にある程度安定した地位を獲得しているため「とにかくなんかやろう!」というなりふり構わない精神ではなくなっているように思います。そうなってくると外してでも記憶に残る企画、というよりは平穏かつ視聴者が満足することを目指したコラボの傾向が強くなります。
つまり、現在アイドル部の面々が参加しているコラボは2020年デビューの人達が行うような企画よりマイルドなものになっているのです。
それはより印象に残りにくいという事であり、コラボの解禁理由がもし導線の再獲得なのであればコラボ対象者選びを失敗しているという事になります。

このように上記の企業戦略はブランディングとして有効だったのだと思いますが、人の流入、導線の視点ではネガティブな影響を生んだのだと考えられます。

次は各企業の戦略差が大きく出た2019年を見ていきましょう。

2019年のコミックマーケットから見る戦略差


2019年はアイドル部、にじさんじ、ホロライブの企業戦略差が非常にわかりやすい年でした。
それは「コミックマーケット96・97」への各企業のアプローチから見て取る事が出来ます。
コミックマーケットをご存じでない方もいると思うのでかいつまんで説明しますと、毎年夏と冬に開催される有志の方が同人誌やCD、小物を作成し頒布する世界最大級イベントです。企業もブースを出展できるため、各ジャンルの最新コンテンツを知れる場としても利用できるのでその点では他業種の企業展示会とそう変わらない立ち位置にあります。

この企業展示会的側面を持つコミックマーケットにおいて優位に動けたのは順にホロライブ、にじさんじ、そして大きく差がありアイドル部でした。
2018年ではにじさんじの後追い戦略なホロライブがここで独自性を発揮してきたわけです。
詳細を書くと非常に長くなるので割愛して箇条書きに留めますが、

アイドル部:96、97ともに企業ブースなし
      コミックマーケットを特に重視していない

にじさんじ:96、97ともに企業ブースあり
      96はにじホロ背中合わせで共に盛り上げている感あり
      巨大なモニターの導入は97から
      モニターではライバーの特別トークや映像を流していた
      (私が見たのは出雲、コウ、勝のトーク)
                      TANITAでJK組の万歩計やウィクロスコラボのブースもあった

ホロライブ:96、97ともに企業ブースあり
      96はにじホロ背中合わせで共に盛り上げている感あり
      巨大モニターは96、97両方
      モニターでは96では水着3Dを、97では特別トークを流していた
      (私が見たのはまつり、シオンのトーク)
      96、97ともにカタログ裏に広告を出した
      96、97ともに献血ポスターキャンペーンをした
      親イラストレーターのブースでデジタルな売り子を行った


このような感じですね。
にじさんじ、ホロライブは重視の姿勢で挑み、アイドル部は特に出店しないのが印象的でした。
特徴的だったのは、ホロライブがより目に留まりやすいようにコミケカタログの裏面に広告を出したこと、献血ポスターキャンペーンをしたこと、親イラストレーターのブースでモニタを用いたデジタル売り子を行う事を許可したことです。
これにより未だ興味を持たないオタク層に対して周知し、「配信?オタクコンテンツなのそれ?」の状態から、コミケに親和性がありオタクコンテンツ上のものであるという喧伝をする効果もあったでしょう。
アズールレーンの後押しもありコミケに行く層を自分の領域に流入させることに成功しました。
(明確なデータは後々調べて付けるかもですがそこら辺から明確に伸びてますよね)
にじさんじもウィクロスのカード化などでオタクコンテンツであることを喧伝し、しっかりと小間数を取ったブースで来場者の目に入るようにした上でモニタを使用し男性VTuberを含めた複数人でのトークを流すことで差別化してコミケを優位に進めました。

で、本題のアイドル部なのですが出店していないのでこの時コミックマーケットに行った人との導線は基本的に発生していないと考えて良いでしょう。
広告効果も当然期待できません。
憶測ですがブースを設け、オタクコンテンツであることの喧伝を大々的に行っていないのでVTuberではある事を認識されていてもオタクコンテンツ上のものであるとは認識されなかったのではないでしょうか。
だからこそオタク層の新規流入が少なかった。というかにじさんじ、ホロライブに流入したのだと予想されます。
投じた広告宣伝費の差がもろに出た形といえるでしょう。

ただ、この違いは企業側の売り方と合致しているように思うのです。
なぜなら企業側はアイドル部をリアルのアイドルの一種として売り込んでいる様子を見て取ることができるからです。
TVのガリベンガーや映画の白爪草、書籍、様々なリアルイベントもその売り込みの一環でしょう。
戦略を立てる人物がリアルのアイドルビジネスに精通しており、かつオタクコンテンツそのものコミケ的なジャンルに疎いのであれば上記の戦略差異が生まれるのも納得できるところではあります。
なんにせよ上記戦略差が結果として2019年中盤~後半の流入の差を生んだと考えられます。

企業戦略が意図せず産んだ「流入を妨げるもの」


以上が企業戦略の差から生まれた影響、流入の減少です。
しかしここで疑問も生まれます。
コラボ相手先の選定はさておき1つ目の企業戦略は転換されているわけですから導線が細くなったとはいえ徐々に人が流入し始めてもおかしくないのでは?と。
残念ながら実際にはそうなっていませんのでまだ他に流入を妨げるものが存在していることになるわけです。
今回私は一つの要因、企業戦略から生まれた副産物が影響しているのではないかと考えました。
具体的に言えば「企業戦略が上手く機能した結果、なぜかSNSが不得手なファン層が現れた。そして彼らのSNS上の動きが新たな流入を妨げている要因になっている」というものです。

これまで説明してきたのはアイドル部の企業戦略の負の側面のようなものです。ただ、正の側面を捉えるならば企業戦略自体は成功しているという視点も忘れてはなりません。
つまりブランディングとリアルアイドル的な売り込み方法は正しく機能しているのです。
機能した結果、ファン層はこの部分を誇るようになりました。
それだけであれば何の問題もありません。
別に誇りに思って良いのです。
誇っている部分はブランディング的に正しいのですから。

ただ…なぜか彼らは誇りに思ったことをSNSで書きだすようになりました。
「コラボをしないことで世界観が守られている」
「そういう部分を大切にしているから他より信頼できる」
「配信者としてではなくアイドルとして尊重されている、活動出来ている」
「だから他にはない輝きがある」
「そんな特別な箱だ」
etc...

なぜこのような習慣が生まれたのかは不明ですが、
(リアルのアイドル周りの文化なのでしょうか?)
SNSの使い方としては悪手です。

外部コラボをするようになり、その導線に乗ってくる人物は当然界隈内の視聴者です。
そして界隈内の人が上記のツイート群を見たらどう思うでしょうか。
「こわ…帰ってパラッパラッパーしとこ…」

となる確率は非常に高いでしょう。

このように導線でやってきた視聴者の流入を妨げ元居た場所にUターンさせている最後の防波堤のような役割を果たしているのではないでしょうか。
ただ、この状態になった根本原因はブランディングの成功によるものだと思いますので改善というのは企業側でも中々難しいかもしれません。
意外と根の深い話なのかもしれませんね。


まとめ

箇条書きで書くと
・アイドル部がYouTubeで跳ねない原因は企業戦略とその影響によるもの
ブランディングの確立に成功したが界隈内導線が消失した
リアルアイドル的な売り込み方に成功したが、コミケ等オタクジャンルへの広告宣伝費の明確な差によりにじさんじ、ホロライブに抑えられた
・ブランディング成功の影響でブランドに誇りを持つファン層が増えた
・そのファン層の書き込みが意図せず導線に沿って来た人をUターンさせる効果を発揮した

こんなところでしょうか。
企業の戦略によって様々な事が連鎖的に発生していくわけですね。
限られたリソースをどこに割き、どう展開し、何が起こるのか。
こういう視点もVtuber界隈の1つの楽しみ方なのかもしれません。

今後アイドル部の運営がどのような戦略を打ち出していくのか、それによってどう状況が変化していくのか、楽しみですね。

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