見出し画像

『チョイス』#1





恵まれない。恵まれない。恵まれない。
そんな毎日の繰り返しのあなたに、
チャンスを与えましょう。
これから始めるのはライフ・チョイスゲーム。
あなたの人生を変える
3つの選択をさしあげます。
人生の分岐点となることでしょう。
手始めに、
命を賭けてゲームをしていただきます。




 自分の感情を気にかけてくれる人なんかいない。
 いつも心の中はひとりぼっちだ。
 なにかのきっかけで、全てがひっくり返ってほしい。そう思っていた。
 今日楽しい1日を送れても、
 明日はつまらないかもしれない。
 今日は誰にも怒られることがなくても、
 明日怒られるかもしれない。
 安定した毎日を送りたい。
 いくら心が進むことを嫌がっても、
 明日が来てしまう。
 「あー、全て消えてしまえ…」
 心でそう呟いた。
 俺の人生に「希望」が訪れたのは、突然だった。
 仕事帰り、家に戻っても落ち着かず、深夜コンビニに向かった。
 しょうもないことを考えながら、
 人目も気にせず、ふらふらと歩いていた。
 サンダル、短パン、メガネの組み合わせ。
 どうせ誰にも会わまい…。
 背中を2回叩かれた。
 「ェッっ」
 きも。怖っ。
 「なんすか」
 っでかっ。この人身長2メートル近くあるし、仮面被ってる。怪しすぎる。
 「ꈉꍩꁡꁣꊁꇆꎶꋎꉐꁾꆊꁢꄺꌟ」
 なに?なんもわからん。なんて喋ってんだよこの人。外国人なのか。
 「あのー、なんて言ってらっしゃいますか」

 「ꂜꆋꄏꋵꈝꊀꇿꆷꂷꌏꋬꈀꆑ」
 いやー、全く聞き取れんわ。なんて言ってんだ。
 あ、翻訳アプリ使えばいいか!
 でも何語なんだ。絶対英語ではない。中国語?いや、韓国語?韓国語ではないか。めんどくさい。そこから考えるのめんどくさいからやっぱいいや。知らないふりして歩こう。無視しよう。
 ごめんだけ言っておくべきだ。
 「sorry」
 俺はコンビニに向かった。
 変な人に絡まれた。危ない。殺されるかもしれなかった。大柄で何語かもわからない言葉喋ってて、仮面つけてて、急に背中トントンされたんだよ?やばいじゃん。俺殺されてたかもしれないじゃん。わかんないけど。
 いいや、忘れよう。
 あれ、何買うんだっけ。あの最近話題のアイスか。  
あと…
 「ꂜꆋꄏꋵꈝꊀꇿꆷꂷꌏꋬꈀꆑ」
 え…
 「ꐬꆊꅂꃲꈜꊀꇿꆹꂵꌎꇁꈀꊯꇰꆋꈛꊎꈚꊂꈂꆺꂵꌏꊽꇿꄵꉚꆋꆍꉪꈛꊁꈁꆺꂷꌎꊲꈂꎳꍃꆌꂍꆀꈝꊀꈁꆷꂶꌏꋶꈂꂝꈀꆌꑄꀒꈚꊁꈂꆺꂶꌎꃠꇿꏃ」
 怖すぎ怖すぎ怖すぎ怖すぎ怖すぎ怖すぎ
 逃げる逃げる逃げる
 俺は、全速力で逃げた。
 そのままコンビニに駆け込んだ。
 コンビニの中なら人もいるしきっとあの人だって危険な真似はできないはず。
 とりあえずは大丈夫なはずだ。店員見てろよ。
 なんだったんだよ、あの人。


 あたりはまるで画面が切り替わったかのようになにも見えなくなった。
 真っ暗闇。
 めまいか。
 いや、めまいではない。
 徐々に目が慣れてきて、辺りが見え始めた。
 水平線と波と月だけが見えた。
 ここは海だ。
 海のど真ん中だ。
 ど真ん中で俺はヨットの上に立っている。
 漕ぎ方もわからないヨットでただ1人俺だけが立っている。
 幻覚か?
 いや、現実だ。
 なぜだ。
 さっきまでコンビニにいたはずなのに。
 悪い夢でも見ているのだろうか。
 チカチカと僅かに光る船が遠くに見えた。
 気づけ。気づけ。こっちに気づけ。
 「おーーーい」
 …
 いや気づくはずもない。
 俺が今立っている船は灯りのない小さなヨットだ。
 それにあまりに距離がありすぎる。
 なぜこうなった。
 …
 さっきの大柄の男になにかされたのだろうか。
 その時、1人だと思っていたはずのこの船に、
 一匹の犬がいたことに気づいた。
 もちろん理由なんてわからない。
 なぜ犬なのだろうか。
 そんなこと気にしている暇なんてない。
 なぜ俺がここにいるのかがわからないのだから。
 …
 とは思うものの、可愛らしい見た目をしている。
 雑種だろうか。何犬なのかはわからない。
 目があった。
 ハーハーと口で呼吸している姿がなんともかわいらしい。
 …

 まてまて、さっきの大柄の男はなんだったのだ。
さっきまでコンビニにいたんだぞ。
 おかしい。
 あのコンビニからここに来るまで記憶がないなんて。理由が知りたい。
 こんなに記憶が飛んでいるのは人生のうちにあってはならないことだ。
 睡眠薬でも飲まされたのか。
 いや、そんな隙はなかったはずだ。
 殴られるはずもない。
 コンビニ内でこいつは下手な真似はできなかったはずだ。

 考えられることはただ、一つ。
 今、科学や物理では説明できないことが起きている。

 何かおかしなことが起きていることは確かだ。
 すると、静かな波の音だけが響き渡る海で、聞いたことのない声がした。
 いや、正確には、聞いたことはある。

 「ꂜꆋꄏꋵꈝꊀꇿꆷꂷꌏꋬꈀꆑ」
 「ウワッ!!!!」
 「ꐬꆊꅂꃲꈜꊀꇿꆹꂵꌎꇁꈀꊯꇰꆋꈛꊎꈚꊂꈂꆺꂵꌏꊽꇿꄵꉚꆋꆍꉪꈛꊁꈁꆺꂷꌎꊲꈂꎳꍃꆌꂍꆀꈝꊀꈁꆷꂶꌏꋶꈂꂝꈀꆌꑄꀒꈚꊁꈂꆺꂶꌎꃠꇿꏃ」
 「だれ」

 わかった。
 喋っているのはこの犬だ。
 この犬はさっきの男だ。
 犬は、みるみるうちに姿を変化させ、男の姿に変身した。
「うわっっ」

 「ꐬꆊꅂꃲꈜꊀꇿꆹꂵꌎꇁꈀꊯꇰꆋꈛꊎꈚꊂꈂꆺꂵꌏꊽꇿꄵꉚꆋꆍꉪꈛꊁꈁꆺꂷꌎꊲꈂꎳꍃꆌꂍꆀꈝꊀꈁꆷꂶꌏꋶꈂꂝꈀꆌꑄꀒꈚꊁꈂꆺꂶꌎꃠꇿꏃ」
 状況を俺に説明しているのだろうか…
 わかるはずがない。
 何語。
 男は、僕にタブレット端末を渡した。
 理解することはできない。
 なにからなにまで。
 たった今僕のものになったであろうタブレットを、男は操作し、翻訳機能を開いた。

 「ꐬꆊꅂꃲꈜꊀꇿꆹꂵꌎꇁꈀꊯꇰꆋꈛꊎꈚꊂꈂꆺꂵꌏꊽꇿꄵꉚꆋꆍꉪꈛꊁꈁꆺꂷꌎꊲꈂꎳꍃꆌꂍꆀꈝꊀꈁꆷꂶꌏꋶꈂꂝꈀꆌꑄꀒꈚꊁꈂピコン…ビックリサセテゴメンナサイ、オドロカセるつもりはアリマセンでした。」

 いや驚かないわけがないでしょ。
 はやく説明しろよ、説明を。

 「なんですか、これは、この状況は。説明してください。
 「セツメイシマショウ。あなたは、選ばれてここにいます。あなたは、選ばれし逸材デス。
これから、ゲームに参加シテモライマス。」

 なんだよ。ゲームってこういうのは大体、大人数でやるんだよ。
 映画とかで見るなんとかゲームみたいなやつは。
 それをこの男はやろうとしてるわけだろ。
だったらなんで俺だけ拉致して1人でゲームをやらせようとしてるんだよ。
 もっと人集めろよ。…そこではないか。
 …それか
他にもどこかに同じような人たちがいるのか?
 …
〜〜〜〜〜〜〜〜この海のどこかに〜〜〜〜〜〜〜〜

 「アナタは、コノフネからオチナケレバイイ。
 そして死ナナケレバ。生き残ればイインデス。
 タダソレダケのタンジュンなゲーム。
 コノ海ニワ、50名のヨットに乗った戦士がイマス。
 アナタは、その残り49人と闘っていたダキマス。生き残ればイインデス。タダ、ソレダケデス。
 生き残ったモノには、三つの選択の中から「選択」をしていたダキマス。
 その中カラ、一つをチョイスシテクダサイ。
 ソノ一つは、必ず叶うノdeath。

 この権利は、生き残った一人だけdeath。

 一つ目は、これまで通りに生きること。 
 二つ目は、人生を最初からやり直せること。 
 三つ目は、ワタシと一緒に、このゲームの存続するのdeath。
 ソレでは、チョイスゲームをハジメマス。」


 開始の合図と共に、海のど真ん中に、鯨が高く跳ね上がった。
 着地と共に大きな水飛沫を上げ、こちらにも潮水がかかるほどの大きな飛沫だった。
 しょっぱさは、少しこの状況をエモーショナルにする要素のように感じたが、そんなことより状況はめちゃくちゃだった。
 「なんなんだよ、このゲームは」
 開始の合図と共に、犬、いや、大柄な男が姿を消し、それと同時に、タブレットから通知が来た。
 メッセージを拡大し、表示した。


 [恵まれない。恵まれない。恵まれない。
 そんな毎日の繰り返しのあなたに、
 チャンスを与えましょう。
 これから始めるのはライフ・チョイスゲーム。
 あなたの人生を変える
 3つの選択をしていただきます。
 人生の分岐点となることでしょう。
 手始めに、
 命を賭けてゲームをしていただきます。]

とりあえず、残りの49人を見つけ出せばいいわけだ。人間は、理解し難くても、受け入れて行動しなければならない時がきっとある。
それは、今この場がその時なんだ。
とりあえずゲームを進めて生き残らなければならない。
残り49人を見つけ出して俺は生き残る。

すんなり俺は受け入れてしまった。
どうやら俺は乗り気のようだ。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?