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私のアオハル(1年夏前)

片付けをしていると古いガラケーが出てきた
興味本位で充電してみた
ちゃんと電源が入る
パスワードもなんとなく入れたら開いた

画像フォルダには
卒業アルバムには載ってない
なんてことない日常が溢れていた

これは開けてはいけない
懐かしさで1時間もその場から動けなくなった
もう卒業して10年と少し経つのに

一枚、心に刺さるものがあった
夏合宿で同期女子で撮った写真だ
17歳…
「みんなで1部リーグいこう」
それを合言葉に練習していた

結果、その望みは叶わない
1部リーグにも上がれないし

1人は上級生と揉めて辞めるし
学業(留年)優先で辞めた子もいる
夏合宿で心折れる子もたくさんいた

私も部活生活後半はバイクで事故して
まともに弓を引くことが出来なかった
今も指が若干短いし爪は変形したままだ

結局最後は女子の同期は2人になった
そして年々性格は丸くなり大人になっていく

でも卒業写真は途中で辞めた子も集合して
何のわだかまりもなかったように
みんな笑顔で溢れていた

インカレを目指す体育会は規律も練習も厳しい
加えて弓具代を稼ぐためにバイト漬けにもなる
それを乗り切る体力と精神力が求められた
なんの覚悟もないまま真っ白な気持ちでいた


新入生歓迎の時期に右も左も分からず
校内をウロウロ歩いていた
鴨だ、あっという間に勧誘されて
練習用の弓を体験した

後ろの練習場では本物の弓の音が響いていた
「あの、あっちのが見たい…です」
「いいよ。」

許可を得て見せてもらった
「なんか…照れるわぁ…」
と言いながらもその先輩は
美しく真ん中の黄色の中心に当てた

「アレが10点やで!」っと教えてもらったと同時に
「かっこいい」口から溢れていた

「半年もすればあなたも同じこと出来るわ」
出来るまでちゃんと教えてあげる
3年の色気がすごくて真っ赤になる
なんかいい匂いもした

胸がギュッとなった
仮入部することに決めた


そこからは続々と同期が増えた
初めの2ヶ月は男女混合で基礎体力をつけた
「同期は全員ライバルよ!」
練習の面倒を見てくれる先輩が言う

1周1キロを10周
身体中、筋トレ
ストレッチバンドでの射形トレーニング
毎日ひたすら基礎練習

ランニングは初めは元文化部の男子には負けなかった

顕微鏡で微生物覗いてた奴には負けねぇよと内心思っていた

走りきれず過呼吸になり転がっている同期もいた
腕立てが出来ない女子もいた

陸上で長距離の走り方は嫌ほど知っている
もう走るのが嫌でなるべく走らなさそうな部活ににしたのにと頭がぐるぐるした

走り方を同期男子に聞かれて坂と下りのコツを教えた、それだけでも次の日には格段に速くなっていた

「男子3日会わざれば刮目して見よ」という諺があるように2ヶ月経つ頃には男子の誰にも勝てなくなった

筋肉量も明らかに違う
どれだけ腹筋しても男の筋肉には負ける
あんなに細かった腕が太くなり
袖もピチピチになっている

女子は見た目はそんなに変わらないが
体幹はかなり強くなっていた
あとおそろしいほど身体が柔らかくなった
あと懸垂も出来るようになった

筋トレ後にはプロテインを飲んだ
私は牛乳がダメで水で割っていた
粉っぽさがマシマシのプロテインは正直辛かった
当時はあまり質の良いものではなかった
美味しくないよぉ〜…と訴える
「飲め」とプロハラを受けていた

この頃には同回生でかなり仲良しになっていた
共通科目では他学部でも顔を合わせることが多くなり、肩を並べて一緒に授業も受けた

授業中はお互い眠らないように揺さぶったり
椅子蹴ったりして起こしあった

自分の弓が届くまであと少し

本入部にあたり目標を叫ぶ儀式がある

「私は法学部の〇〇(本名)!まずはこの秋の新人戦で優勝します!6年間陸上部で高跳びでは身長の高さ跳べまーす!!体力にはめちゃめちゃ自信がありまーーす!!団体戦にも出たいでぇす!」

声がデカい
鼓膜がビリビリすると先輩たちが拍手してくれる


入部届に正式に判子をついた
「とりあえず30万用意できる?」
ニコニコして先輩が言う

え?…即金?ローン?
もしかしてマルチかな?
「一応バイトしてるんでそれくらいなら貯金ありますけど…」

弓は身体に合わせて選ぶ
矢尺も腕の長さにあわせてカーボン矢を切る
特注品だ

嫌な予感もした
「もしかして定期的にそれくらいお金いります?」

「ピンポーン!
合宿費とか消耗品代いれたらも〜っとかかります」

バイトを増やすことにした
実家に泣きつけば出してくれんことないだろうけど、同期のほとんどはバイトを選んだ
自立してこそだ

卒業後このシステムは見直された
金銭的な負担がかからないように配慮されている
そして体育会からサークルになった
時代の流れだ


気がつけば初夏になっていた
最低限の装備の自分の弓が届く
大好きな濃いめ赤色で統一した
矢羽も赤とピンク
好きな色は気分がいい

エヴァ弐号機と呼ばれた
「アスカじゃん」
アンタばかぁ?!と同回生でふざける

練習はダンボールに均等に印をつけて
近射台に向けて射っていく
それだけでも楽しかった

やっと30mを射てるようになり初心者マークの証であるグリーンバッチをもらった

前期テストが終わり
夏休みの強化合宿が始まった
シンプルな地獄が始まる


暑さに慣れてない1回生はよく倒れた
少しでも異変があれば日陰で休むように言われていた

2Lのおちゃと水を2本ずつ持参する
それでも足りなくて脱水になる

ある日、雨の後湿気がベタつく日に
一度だけ熱中症で意識が朦朧とした
頭痛と吐き気の前駆症状はあったが我慢していた
一本でも多く射って誰にも負けたくない
これくらいなら大丈夫だ

視界がボヤけて矢を引き戻して
ここからは意識が飛び飛びだ
コンクリートの上に真後ろに倒れたらしい
幸いぶつけることなく後ろにいた先輩がすぐに異変に気がついて抱き抱えてくれた

先輩が同期に医務室の先生を呼びに行かせてる間
ホースで頭に水をかけられて何度も声をかけられる
「起きろ!おい!!」
「一応横向けるぞ」
勝手にさっき飲んだばかりの水が出てくる
返事は出来なかった

でもうっすら意識があり聞こえていたし
何となく覚えていた
光が強くて目が開けられない

あともうちょい優しく起こして
冷たい水が心地いい
掃除用のホースだけど
言えないけど

「どうやって運ぶ?」
「腕と足かな?」
捕らえた豚の丸焼きスタイルじゃん…

女子のリーダーが困っていて
「こんな時の男手だろ」

「おい!男子同期!50kgくらいある子運べる奴いるかー?」

やめてぇ。あと45kgです。

「僕、それくらいならいけます」

「じゃぁ頼んだ!あとで荷物は持っていくからとりあえずよろしく〜」

ビチャビチャのまま同期の男子に運ばれて
しばらく歩いて揺らされて「うぅ…」と声を出す

肩に担ぐ山賊スタイルだった

「あ、起きたか?」
「ごめん、さっき…」
「あぁ、いいよ。気にすんな」
ビチャビチャやしどうせ着替えるしな
そんなに汚いもんでもないし
と笑ってくれた

「俺、野球部やったからさ、よくあったの。男子校やったし慣れてるから。今は気分悪くないか?トイレまで間に合うか?」

「いや、大丈夫。でも歩けない」
「うん。」
「軽いな、もっと食えよ」
「そうする、アイス奢ってよ」
「はいはい」

夏の間強化練習の間、食欲が全くなくなり
ゼリー飲料ばかり飲んでいた
アホほど痩せた

彼とは2年後同棲することになる
それまでも同期たちと彼の下宿先で食事をしたり成人後には飲み会もした

結局、医務室では身体中冷やされて経口補水液をちびちび飲んで夕方には動けるようになった


本部から通達があり気温によっては
野外練習を中止することになった
完全に通達は無視していたが休憩時間が若干伸びた

異常気象でその夏は特に暑かったのだ
蝉が異常なほど鳴いていた
あと蚊も多かった

オフの日に夏合宿に向けて自分の練習着を買う

ついでに熱中症騒ぎの時に
世話になった同期にポロシャツを買った
バイト代も入ったしちょっとイイ奴あげよう

男子に担がれるなんて思い出しただけでも恥ずかしい
きっともっと腕は逞しくなるから
ちょっと大きめのサイズにした
彼の弓と同じ黒ベースのデザインにした

読み通り4年の時にはジャストサイズになる

練習終わりにこっそり呼び出して
「この前ありがとう。これよかったら着て」と渡す

「マジで?ええん?ありがとう。都会の子が選んでくれたならなんや自信持って着れるわ。俺、ずっと大事にするけんな〜。」
下宿組はまだまだ方言が抜けずに可愛い

言葉通り本当にずっと着てくれていた
私がseason1と付き合いはじめたことを知った時も一年中着てくれていた


後日、お礼のお礼にシュシュを貰った
髪にくくると薔薇みたいに見える真っ赤なシュシュにイニシャルのアクセサリーが付いている

「あの…バイト先の先輩に聞いて選んだ。お前髪、長くて綺麗やから…よかったら使ってくれん?」
「射ってる時のお前のポニーテール…かっこいいよな」と視線を逸らす

女慣れしてない
耳まで真っ赤になって渡してくれた

ありがたく受け取る
こっちまで照れる

練習では絞れるほど汗をかくので
シュシュは授業中につけていた
中のゴムが緩くなっても入れ替えて
使うほど気に入っていた

軽めの喧嘩をした時もつけていた

個人戦やリーグ戦の写真は
全部この赤いシュシュをつけている
もう目印のようになっている

今思えばほのかにお互いを意識していた
でも、そのあと違う人に恋をした

当時ヘアアクセサリーでは
シュシュがとても流行っていた
実は今も持っている

夏合宿が始まる
20日近く拘束される
夜行バスに乗り
8県跨いで避暑地の合宿所へ向かう
めちゃくちゃバス酔いした
夜行バスで一睡も出来なかった

練習場の規模の関係で
移動以外は男女別だ

先についた女子の場所に降りる
「またな!皆んな頑張ろな!」
男子がギャァギャァ騒ぐ

荷ほどきを済ませて練習着に着替えて
さっそく練習が始まる

空気が澄んでいる
山の中の匂いがする
そして何よりも涼しい
暑さに弱い私は最高やん…と思った

最初だけは天国
ここは地獄の一丁目
なんちゃって

つづく!


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無印良品のポチ菓子で書く気力を養っています。 お気に入りはブールドネージュです。