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日本初の講義口コミサイトを作った話

私が京都大学に入学したのは1996年のことだ。私は大学の隣に下宿していたが、絶望的に健康状態が悪く、講義にはほとんど出席できなかった。それでも何とか卒業できたのは、出席をとる教員が少なかったからである。

時代は、Windows95が発売されてから少し経った頃だ。私は大学に入って初めてコンピュータというものを触った。インターネットにアクセスする際は電話回線を使用してプロバイダーに接続したが、プロバイダーが持っている回線数は限られている。回線がいっぱいの時は掛けなおさなければならない。NTTが「テレホーダイ」という深夜だけの通話料定額サービスを始め、毎晩22時になると、回線争奪合戦が繰り広げられた。勝者だけがインターネットに接続できるのである。

ところで、インターネットの黎明期には、ただネットがつながっているだけでコンテンツなど何もない。「○○のホームページ」というタイトルでサイトを開設することがブームだった。当然Wordpressなどないから、HTMLをテキストエディタで打ってFTPでアップロードした。インターネットに接続したら、まず友人のホームページを巡回するのがルーティンだった。

しかしそれだけでは暇だ。暇を持て余した学生は、チャットプログラムを自作してネットに設置した。22時になると起床してインターネットに接続し、チャットルームでたわいもないやり取りをして、テレホーダイの適用時間が終わる明け方になると眠るのである。

ウェブブラウザを用いて双方向コミュニケーションを実現する技術としては、Perl言語によるCGIが主流だった。開発者コミュニティなど(簡単にアクセスできる状態で)存在しない。Q&Aサイトすらなかった。頼りになるのは厚さ5cmもあるリファレンスブックだけである。私はそれを引きながら、インターネット上に趣味のためのコミュニティを作った。これらについてはもう残害しかないためあえてサイト名は出さないが、取り上げられた新聞記事のコピーや、雑誌の編集部からもらったサンプル誌が今も残っている。

さて、本題。私は、健康上の理由で大学の講義にはほとんど出席していない。だが、出席したいとは思っていた。本当に。いや、本当だって。

時期としては、私が4回生になる前(2000年の年明けごろだと思う)、PerlによるCGI技術を使用して、講義の口コミサイトを立ち上げたのだった。京都大学には「全学共通科目」というものがあり、学内の様々な機関が講義を提供して、これがいわゆる教養科目の役割を果たしていた。講義口コミサイト「全学共通科目掲示板」を運営するためのサークル「てながざる」を立ち上げると、私の他に3人のメンバーが集まった。

当時は、単位の取りやすい講義情報をまとめた資料がコピーされて流通していた。この状況を打破し、学生の視点から学問に対する生きた声を集めたかった。重複履修が認められていない講義については、どちらの講義にどういう特徴があるか知りたかった。

1999年のシラバスを目視して手で打ち込むことにより、講義のデータベースを作成した。1999年度は人力で集めた口コミを掲載していたように思う。そして、2000年4月、新しいシラバスを入手して講義マースターを更新した。1年間運用してみて、爆発的には広がらなかった。そして、メンバーの卒業とともに講義マスターのメンテナンスができなくなり、サークル「てながざる」は自然消滅した。

今となっては楽しい思い出である。今の学生さんたちが講義を選ぶときにどういったツールを使用しているかは知らない。続けていたら、割と商売になったかもしれないと思う。

記載した時期については若干の記憶違いがあるかもしれないが、その際はご容赦を。



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