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きみと8月のすべて ⑥

「警察に通報しよう!」
昨日までここにあったはずの売り上げは今朝、
涼太が起きてくると無くなっていて、太一も、太一の少ない荷物も存在していなかったかの様に消えていた。

智那はため息をついてスマホを操作する。
智那の手の中でスマホはコールしている。

『智那』
スマホを取り上げて電話を切る涼太。
涼太を見あげる智那の目は憤り、涙を溜めている。
「なにしてっ、、」
『店を守るためや』
   
「お兄ちゃん、甘いって 私らだけの生活ちゃうねんで」
『わーかってるって。だからや。
  だから、帰ってもらったんや。売上げは、まぁ手切れ金やな。
  智那もわかってるやろ。警察に言ったって兄弟で取った取られたなんて
  恥さらすだけや。』
涼太は智那の目を見てスマホを智那に返した。

智那に背を向け冷凍庫を開け、気を散らす。 
『この狭い町でそんなんやってみいや。
        俺らなんも悪ないのに人の足は遠ざかる。そうやろ?』
智那は行き場のない怒りで手の中のスマホを歪ませてしまいそうだった。
「ええの、、、?おにぃのじんせっ、、」
『ええも何も、しゃあないやん!』
無理に明るい声で智那の言葉を遮る。

涼太を見上げ、スマホを握る手が少し緩む智那に、
涼太は笑顔にならない笑顔で智那の顏の前に兄妹そろってお気に入りのアイスを差し出す。
不器用に右の口角だけをあげる涼太。
反対の手にはしっかり自分の分のアイスも持っている。

「・・・お兄ちゃん
       ・・・・強いんかあほなんか、わっからへん!!」

智那は涼太の鈍い笑顔に強さを感じ、スマホをテーブルに置きわざと雑に
涼太からアイスを受け取る。
2人はテーブルに向き合って座り、アイスを頬張った。


『智那ちゃんのお兄ちゃん強いでぇ~!って子供の時は言ってたけどな。
                    強ないよ。逃げてんねん。』
「ほんま そうやな。」
『そ・・そんなにまっすぐ肯定すんなよ、、』 
「でも、人のまっすぐな気持ちには真正面から向きあわなあかんで」
『え。』
涼太はひかるの”好きです”を思い出した。
『え、何で知ってるん?』
「?なにを?」
『あ。いや、、、』
「あーあ。これだけ言うつもりやったのに。 
           ご褒美アイスご馳走になってもうたなー」
そう言いながら智那は立ち上がり玄関に向かっていく
靴を履き振り返ると、最後の一口と少しの棒付きアイスを器用に食べながら
一言つぶやいた。

「・・・・・明日から店戻してええよね」 

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