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きみと8月のすべて ⑧

日差しの照り付ける7年前の夏、涼太と智那が海の家で汗を流していた。
毎日同じ暑い日の繰り返しでも二人の息はピッタリで他のスタッフからも慕われている。
カウンターの中で智那がビールを注いでいる時、注文口の列を抜いて知ってる顔が走り寄ってきた。
交番勤務の制服を着た叔父が青白い顔をして慌てていた
「涼太、智那ちゃん!!二人が・・・・」

*********
夏目商店の海の家が遠くに見えている浜辺の端っこ
太陽が光を抑えながら降りてくる中で、海水浴客たちが帰り支度をすすめる
涼太はいつもより遠くに軽トラを停めて砂浜を歩いていた。
7年前、両親が事故で突然居なくなった。
あの夏も暑かったのだろうか。
とにかく忙しくて、やる事が多くて、あっという間やった。
当時大学生だった智那は退学を口にしたが僕がそうはさせへんかった。
太一が店を継ぐとは思ってへんかったし、いつか自分がとは思っとったけど
いざ継ぐ時はもっと色々と教えてもらえるもんやと思ってたな。

この前のひかるちゃんの言葉も気になっている。
恋愛?とか自分の気持ち?とかそういえば考える時間も無かったし
すっかりわからへん。
かといって自分の”わからない”で逃げるのは申し訳ないし、、、。

考え事をしながら歩いていたら海の家が見えてきた。
見せはCLOSEしていてスタッフがそれぞ締めの片づけをしている。
楽しそうな話し声が聞こえてきてなんだか賑やかで締め作業が楽しそうだ。
    
そんな中、ひかるが電話を受け表情が固まるのが見えた。

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「はい。え。。パパが?」
突然の電話を受けたひかるが、泣き出しそうな顔で
「あ。あの、、、智那さん、父親が、、」
    
『ひかるちゃん!いくで!車あっちやねん』
どこから現れたのか涼太が現れて声をかけた。
「おにいちゃん!?」
『ひかるちゃん、はよ』
智那をはじめスタッフ達も早く行くようにと合図を出した。
「ありがとうございます」と言いながらひかるは荷物をさっとまとめて涼太と共に走りだした。

波の音が大きく聞こえ、ふたりの影が小さくなっていく

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辺りは真っ暗になって軽トラの助手席には今にも泣き出しそうに自分の膝を強く見つめるひかる。

「よかったやん」
『ほんとに、、すいませんでした。』
「なんであやまんねん? 事故って聞いたからあせったけど
                      元気でよかったやんか」
『・・・・・・はい。ありがとうございました。』
「全然よ。でもお父さん骨折しとるんやし、退院までお見舞い行ってや?」
『はい、、、』
 
「あ、、あの、ひかるちゃん。こないだはありがとう」
ひかるはあの日の告白を思い出した。恥ずかしくて仕方ない。
「僕、今まだ余裕がなくて。
 たとえばひかるちゃん楽しませてあげられる余裕も自信もないねん。
 いい年して恥ずかしすぎるんやけど。       未熟やねんな」

「・・・・・・ごめん・・・」  
『ふふっ。なんであやまるんですか?』
「いや、、俺が未熟やから」
『ありがとうございます! 大丈夫です。
     返事もらえなかったし、もやもやしてたけどすっきりしました』
「そっか。遅くなってごめん。」                
『それは確かに!笑 あ、このコンビニの前で大丈夫です!
        帰りまで送ってくださってありがとうございます。』  
「あ、コンビニ寄ってく?ひかるちゃん家もう少しちゃうん?送るで」
『いや、ここにしてください好きな人と一緒にいたら息苦しいんで』
「・・・・」
車はコンビニの駐車場に入り、ひかるは降りる。
『気をつけて帰ってください』
「ひかるちゃんこそな!
  あ、お見舞いも大変やろうし、シフトは智那に相談しや」
『いえ、変更はなくて大丈夫です!』
「ほんま、気をつけて帰ってや」  
ひかるは車の後姿を見送った。

結果はわかっていたから。
涼太さんがまっすぐな人だって事も、恋愛とか考える暇なく人の為を考える人だってことも一緒に働いて、痛いほどわかった。
自分の気持ちを知ってほしかったし、知らずに接しても欲しかった。
あの時の告白は突発的な衝動で、付き合うとかそういう事を望んでいたわけじゃない。
そうだ。そんな事望んでなかった。わかっていたから、、

ひかるはコンビニに入らずに家へ向かった。
夏の少女の涙は美しい。
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涼太は自分が忘れていた感情を相手から感じ取り、答えを出した今も、
もやもやしていた。      
そのもやもやをシャワーで洗い流していた。
なんでもない。なんでもない。と自分自身に言い聞かせながら
シャンプーを洗い流しリンスを付けると、とても良く泡立った。。。
「え。うあ。もーーーー。」                     
もう一度泡を流していると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「?」
気のせいか、、、いや、確かに聞こえた。
智那なら勝手に上がってくるはずだが、、物音はしない。
なんや。いつも黙って上がってくんのに。鍵かけてもうたか、、、?
「智那かー鍵かけてへんでーあがっとってー」玄関の方に叫んだ。
入ってくる物音が聞こえた。

涼太は慌てることなくシャワーを済まし、タオルで頭を乾かしながらリビングに戻った。
そこに立っているのは智那ではなかった。

「ま、まゆみさん、、、」
色の無い表情のまゆみさんが立っていた。
『涼太君、、、』

〔会いたかったの・・・〕
〔まゆみさん、、俺も、、〕 

『会いたかったの・・・』
妄想の中と同じセリフ同じ表情の真由美さんが存在した。
「⁉」
戸惑っていると真由美が涼太の胸に入り込んできた。
手の置き場に困り、真由美の肩に触れる。
”なかむら”の匂いとほんのりラベンダーの香りがした。
「ど、どないしたんで、」
『母が・・・』
「・・・」
真由美の中でずっと堰き止めていたものがあふれ出した。




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