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飯のような雪

ある日、店主(配偶者)のスニーカーをしぶしぶ洗い、乾かし、いざ靴紐を通そうとした時「この家事イヤすぎる!」と脳内に原始の叫びがこだました。その瞬間あるツイッターアカウントの存在を思い出したのだった。

時は2015年。重篤なワンオペ状態にある家事の鬱憤を吐き出すためにこしらえた極私的しゃべり場アカウントだった。そういえばなんとなく更新しないままでいたがどうしたんだったかアレ。・・・と検索したところその存在が確認された。

「この家事がイヤだ2015」改め「この家事がイヤだ2020」
https://twitter.com/sutekina_okusan

内容はといえば
「家電を買うと付いてくる、複雑に組み立てられた緩衝用段ボールを、パズルを解くように解体して平面化し資源ゴミの日にすべりこませる家事」

「電源ボタンを巧みにかわしながらリモコンの掃除をする家事」

というように、自分の嫌いな家事をひたすら羅列してあるだけのアカウントだった。しかし5年も経つがなかなか現役感のある塩家事ばかりだった。
これはいい。コロナの腹立ち紛れに再開しよう。

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さて、その家事だが、いまだほぼワンオペ状態のままだ。店主(配偶者)自体はフェミニストなので「家事は女のするもの」とは少しも思ってはいないものの、「家事は誰かがするもの」という他人任せなスタンスは崩さない。結果自分がするハメになる。

そんな先週のことだ。
店で出している「小海老の天ぷら」の揚がりが良かったので「くれ」と要求したら即座に断られた。しかしどうしても食べたい。
そこで「じゃあ、明日布団を干してあげるから小海老天3つくれ」と交渉したら、しぶしぶ首を縦に振った。

放っておけば永遠に布団を干さない店主(配偶者)だ。我が家は夫婦別室で、配偶者は「ぬれ煎餅」のようにちょっと湿気った布団がお好みかと思っていたが
どうやらそうでは無かったようだった。

とにかくイレギュラーな家事が「小海老天」と引き換えにされるようになったのだ。「一晩寝かせた弁当箱を洗う」「布団を干す」は小海老天3個に相当。「スニーカーを洗う」は小海老天5個で同意を得た。「スニーカーに紐を通す」は小海老天3個に相当。よって昨日は「スニーカーの紐通し」と引き換えに三個の小海老天を獲得していた。

今朝、起きると外はいちめんの雪。
天むすにしようとしていた小海老天だが急遽献立変更を余儀なくされる。まず伸ばした麺つゆにうどんと具を投入し火にくべる。しばらくグツらせ、火を止める少〜し前に天ぷらを投入。しばし待ち、最後に卵を割り入れてすぐにフタをする。海老天入り鍋焼きうどんの朝食だ。

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その間もますます雪は強さを増していく。この調子だと家の前の雪かきが必要になりそうだ。気が重い。おそらく「雪かき」は少なくとも小海老天8つには相当する重い家事だ。

しかし、8個なら天丼に出来る・・・・

揚げたての小海老の天ぷらを飯の上に乗せ、熱いうちに丼だれをかける。衣の表面で蒸発した汁が爆ぜる音とともに、丼しぶきが辺りを舞う。鼻腔をくすぐる砂糖と醤油の焦げた匂いに、いてもたっても居られず、夢中で丼に顔を埋め、コメと海老もろとも貪り食うのだ。最高だろう。

天丼に想いを馳せながら降り積もる雪を見ていた。
もはや雪は、白飯にしか見えなかった。

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