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自分のデザインをアップデートさせる20のヒント

20年以上デザインの仕事に携わっていますが、常に「デザインのレベル上げたい」という気持ちはあります。過去のデザインと今を見比べれば、そのときより良くなってるとは思いますし、その間、いろいろなものに触れ、経験し、学んだことが活かされているからだと思います。さて、それはいったい何なのか。

最近のテーマは、デザインの過程(思考や行動)を言語化することで再現性を高め、自分自身のデザイン力を上げていくことと、チーム全体のデザイン力の底上げを図ることです。「なんとなく良くなっている」ということではなく、デザインする際にどのように向き合い、取り組んでいるかの輪郭をあぶりだし、過程をまとめることで、恒常的にアップデートさせる下地になるのではないかと…ふだん取り組んでいることをまとめてみます。


1. 自分のモノにする

「〇〇風」というデザインにするとしたら、その「〇〇風」をひたすら探し、ストックし、脳内に入れます。探さないまま手をつけると、先入観や固定観念、何よりも自分の少ない引き出しの中で安易に答えを出してしまいがち。あらゆる参考イメージが頭の中にいくつも浮かぶぐらい、しっかり調べていきます。

これを繰り返すことで、デザインのタネを探そうとして見つけるのではなく、たまたま見つかった、勝手にアンテナに引っ掛かった、みたいな感覚が手に入ります。経験を積んでいくとそういう機会が増えていきます。

2. キュレーターの「目」を盗む

デザインポータル等で参考サイトを探すとき、目的意識がないと自分の好みのデザインしか目に入らないことがあります。この仕事に好き嫌いは関係ないので、参考探しのときは好き嫌いフィルターを外しておかないといけません

いいキュレーターは目が肥えています。決して新しい手法やインパクトのある印象的なデザイン・演出のものだけが紹介されているわけではなく、一見地味でも、よく見ると隅々まで妥協なく手が入っている完成度の高いサイトだったりします。キュレーターの「視点」を盗む意識を持って探すと、新しい発見があるはずです。

また、掲載されているからすべてが素晴らしいと鵜呑みにせず、自分の中で気づく違和感をキャッチするとよいです。「ここはいいけど、ここはこうしないな」といった視点を持つことも大事です。

3. 日々、考察する

電車の通勤途中に窓の外眺めて、「今日は青いモノだけ見る」などフォーカスする対象を決めて考察する訓練せよと、学生時代に東京のデザイン事務所でバイトしてたとき、先輩に教わりました。

特定のものを抽出して分析する力、抽出する視点を切り替える力、時間の変化とともに抽出した対象の変化を感じ取る力…。その思考はアイデア探しするときのピント合わせとして、すごく役に立っています。

4. 組み合わせて、自分だけのデザインを

調べ、盗んだあと、一番大事なのは「組み合わせる」ことです。ビジュアル、コピー、配色、レイアウト…様々な要素をサンプリングして、これぞという組み合わせを見つけることではじめて、自分のデザインがアップデートしていく実感を掴めます。アレとコレを組み合わせると、どうなるか。常にその掛け合わせのイメージを持って向き合うことがポイントです。

例えば、「土屋印店」のデザインでは、和の世界観ではありますがインスピレーションになったものは海外のwebサイトでした。

5. コトバを探す

ひとつのキーワードがデザインを加速させます。その一語が出ずに(引き出せずに)行き詰まり、すごく悶々とすることも多いです。デザインって言葉探しだなと思います。
例えば、清酒製造をしている「大信州」様の場合は、日本酒を作る過程や想いから「美学」というワードを引き出し、書を使って表現する、という提案へと導きました。「日本酒」や「自然」といったすぐ思いつく言葉だけでは、この表現には至らなかったでしょう。

6. 他者の意見に耳を傾ける

たくさん調べて引き出しが多くなっても、サンプリング(抽出)ができなかったり、固定観念や勝ちパターンから抜け出せなければ、新しい組み合わせ・チャレンジに至りません。デザインはどうしても属人的な部分に支配されがち。そんなとき、いっしょにプロジェクトを進めているメンバーを頼ります。自分の固定観念を打ち砕いてくれる考えやアイデアもあるはずです。特にデザイナー以外の、ディレクターやマーケター、エンジニアの意見はすごく参考になります。他社の客観的な意見、定量的な事実などをインプットすることによって、自分では思いつかないサンプリングが生まれる場合も多いので、組み合わせの可能性を広げる「耳」の感度は上げたいものです。

7. 筋道を立てる

アイデアがあっても、表現できなければ無意味です。ある程度方向性が見えてきたら、それをどうやって実現するかを考えます。プロセスを想像する力は大事です。10年以上前ですが、Illustrator、Photoshopの「3行レシピ」シリーズの本書かせてもらいました。3ステップとか、3分とかで完成させる方法を思考し、研究し、身につけておくと、やりたいことがパッと試せるようになります。どうやったら目的にたどり着けるか、どうやったらやりたいことを表現できるか。その過程を追っていく思考と技術を身につけることを普段から怠ってはいけません。

8. ラフを描く

何度も紹介していますが、僕はラフを描くことでデザインの思考をあぶりだしています。ラフは時間かけずに描きます。いちいち消したりしません。その短時間のなかで、はやめに違和感に気づいたり、頭の中を整理できたりするのです。ラフの目的は全体の流れ・優先順位やバランスを把握したり、それを相手に伝えるため。見たときに分かりやすいように極力少ない線で、過不足なく描くことを意識しています。たとえ下手でも、しっかりと自分の体重載せて描くラフには能動的な意思が込められ、それが結果的にデザインに宿ると思うので、自分にとっては欠かせないプロセスです。ラフの感触だけでも、自分の成長を感じ取ることができる瞬間でもあります。

9. 「なぜ」を問い続ける

見た目に注力しすぎて、課題解決や本当に伝えたいことをないがしろにしていないか?ビジュアルを優先させすぎていないか?常に「なぜこのデザインなのか? ゴールは何か? 機能するのか? 利益を生めるのか? ビジネスに貢献できているのか?」を問いながらデザインする。スタイリングだけに没入しすしぎないように、気をつけたいものです。

10. 世界観を決める

たとえ素材が良くても、それを生かすも殺すも使い方次第。どう使ったら一番効果的に見せることができるか、意図を明確にすることが大事です。素材は、素材だけで見ることなく、全体のなかでどう機能するのか、どんな世界観が作れるのかを常に意識します。一本線を入れただけで、カットイラストが宇宙空間にいるかのような表現にすることもできます。Webは画面に収まらないからこそ、世界観をつくるのに利用できます。

11. 仕上がりをイメージした素材づくりを

下のデザインは、写真(図)の背景と、デザイン(地)の背景を合わせることで、角版とはちょっと違った余韻のあるデザインに仕上げることができました。事前にデザインイメージを持つことができれば、撮影やコピーの仕上がりも変わってくるはずです。

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12. ルールを作り、ルールを変える

デザインに一貫性を持たせる
特徴的なデザインの全部または一部を抜き出して他の要素にも使うと、ルールを決めるとデザインしやすくなり、論理性を保ちながら進められます。ページをまたぐwebの場合は特に。どんなルールがふさわしいかを考えるのが楽しいです。毎回、これを一つの課題にしています。

全体を見渡し、立ち止まる
トップページがよい感じに着地しても、下層デザインしている過程でトップも見直さなくては、という場面は必ず出てきます。これは必ずしも設計がよくなかったからというわけではなく、新しいチャレンジをしているからこそぶつかることでもあります。そこで改めて全体を見渡し、何度か行ったり来たり補正することで、新しいルールを見つけたり、無駄なルールを省いたりといった整理ができるようになります。

「自分の枠」を思い切って変化させる
デザインしてると、ベースにある「自分の枠」という法則の中でやることが多いのですが(ボックスのサイズや比率など)、その枠、思い切って広げてみたら?と三歩くらい踏み込んで手を動かしてみると、視界が広がることが多いです。

 「外側」に想いを馳せる
デザインで要素の一部をわざと隠したり、はみ出したりするレイアウト、いつも気にしながら見るようにしています。適度な欠落が受け手の脳を刺激します。デザインするとき、その「欠けた場所」に「受け手の想像力」をしっかり重ね合わせる意識を持つと、いい欠け方が表現できるようになると思うのです。画面の見えない部分、スクロールの先、奥行きの向こう側…そんなことをイメージしながら、デザインするフィールドを拡張していきます。

13. ギアを上げる

要素をきれいに並べるのは当たり前で、それで満足しがちですが、そこから意識的にギアを上げることでデザインのクオリティに差が出てきます。ギアを「上げる」という視界を持てるか、ギアが「上がった」瞬間を感じるための視点や思考をどう手にいれるかがカギです。

14. いったん離れる

デザインに集中しているときは画面の隅々まで意識が行き届いた状態で調整していますが、いったん他の業務や休憩を挟んで再開したとき、パッと目に入った瞬間違和感に気づくことがよくあります。いったん時間や距離を置くとわかること、そのときのほうが客観的にものごとを捉えることができるはず。それをしっかり受け入れることが大事です。

15. いったん忘れる

外山滋比古さんの著書『思考の整理学』では
・材料だけではダメ。
・アイデア(酵素)を加えることが必要。
醗酵させるために“寝させる”、“しばらく忘れる”ことが大事。
とあります。寝かせている間に、思考が大きくなったり消えたりする。そして、醗酵のタイミングがわかってくる。考えが、向こうからやってくる、ということだそうです。

16. プリントする

Webデザインは必ずA3プリントするのですが、全体で見たとき、モニタでは気づきにくいポイントはいろいろあります。重心に偏りがあるなとか、色数使い過ぎてるなとか、ヘッダとフッタで違うサイトになっちゃってる!…とか。俯瞰してはじめてわかることはたくさんあります。

17. みんなに見てもらう

最近は、自分が手がけたデザインの初校案を都度朝礼で共有するようにしています。提案後、気に入ってもらえたものもあれば、ボツったり大幅な修正になったものもあります。なぜ良かったのか、なぜダメだったのか、そういう部分もちゃんと見てもらうことで、スタンドプレーを戒め、自分自身を律する。メンバーとも体験を共有することで、みんなの財産にしていきます。

18. 教える

デザインしながら「自分自身に教える」あるいは「あとで人に教えよう」を意識すると自分の行動が定着し、再現性が高くなるはずです。社内でのナレッジ共有などは、そういう視点で情報に触れているから、他人の記事やデザインも自分目線で紹介できてるんですよね。いい訓練だなと思います。

19. しっかりチェックする

コーダーにトスし、サイトが仕上がってきたサイト制作終盤のクリエイティブチェックは、いかにしてレベル上げていくか「目」と「体」を駆使してしっかり見ます。組みあがったら自分のデザインがイマイチだったなんてこともよくあること。もっとこうすべきだったと、自分の未熟なところを知る機会でもあります。コーダーやエンジニアと協力・共有しながら進めていくこの工程はものづくり感があっていいです。

20. 振り返り会の実施

サイト公開後、案件に関わっている/いないに関わらずすべてのメンバーで振り返り会をしています。良かった点、改善したい点を挙げるのはもちろんですが、作業中になかなか知ることができなかった「実はこんな工夫してた」みたいなこともしっかりキャッチできて有意義です。振り返りをすることで、もう一度ファーストコンタクトから案件全体の要件、仕様、流れを思い出し、それぞれのプロセスの点検ができます。定着させるのには欠かせない時間です。


おわりに

デザインのアップデートとは、吸収し、定着させた知識と経験を反復することでしかないのかなと改めて思いました。

自分自身、必ずしも全てできているわけではないなと感じましたが、自分に問い、メンバーみんなに共有していくことで、1か月後、1年後、10年後と、時間の経過とともに自分もメンバーもレベルが上がったな、と思えるようになりたいものです。


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ハラヒロシ @harahiroshi

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