Vol.48 何の仕事で生きていくのか(1)~カンブリア宮殿より~
以前に私も出演させていただいたテレビ番組『カンブリア宮殿』に、モード学園の学長である、谷まさる氏が出演されていました。
大変人気のある番組ですので、ご覧になった方も多いと思います。
いつも楽しみにしているこの番組ですが、今回の谷氏の活動とお話は、いつも以上に示唆に富んだもので大変勉強になりました。
今号は、このお話を進めてみたいと思います。
ファッション、IT、そして看護分野のトップリーダーであるモード学園は、学長である谷まさる氏の教育哲学により、いくつかの特徴的な教育方針をとっておられます。
以下に私が特に共感を覚え、感銘を受けた部分を記していきます。
1.就職は「就社」ではない
谷氏は、「就職する」ことと、「会社に入社する」ことは全く違うものである、とおっしゃいました。最近の就職活動は「就職」ではなく「就“社”」になっている、つまり、仕事で何をするか、ではなく、どこに勤めるか、ということばかりが重要視されている、ということです。
「就職するとは、社会の中に身を置くこと」という谷氏の言葉通り、社会的存在としての自分を自覚することが、仕事をする上で大変重要なこととなります。これはまさに、就職活動を進める上で、学生たちに「就職の『目的と目標』」を、切っても切れない二本柱として教育することの重要性を表しています。
2. 未来を予測し、先行投資で人材育成
谷まさる氏は、若いころから一貫して、「今は需要が少ないが、将来は必ず必要とされるもの」を、仮説や分析をもとに予測し、そのために準備されてきたことがわかります。
例えば、家庭事情により銀行への就職を余儀なく断念した谷氏は、母親が開いていた小さな洋裁学校の手伝いを始めます。その後ある航空会社が主催のコンテストで賞をとり、パリ訪問の機会を得ます。谷氏はそこで、デザイナーが作るオーダーメイド服だけではなく、デザイナーが作る「おしゃれな既製服」の時代が来ることを痛感したそうです。その未来予測のもと彼は、日本では全く一般的ではない服飾デザイナー養成のための専門学校設立を思いつくのです。
海外の先行事例をお手本に、日本の未来を予測し、未来に対して先行投資を行うという谷氏のビジネススタイルは、私の知る限りでは、ソウトバンクの孫社長も同様の発想を持ち活躍されています。また、現在の私の発想の基本でもあり、改めて学ぶべきものが多くありました。
3.教育でプロを育てる
カリキュラムでは、課題である作品を仕上げるのに、自分が学んでいる専攻以外の他学科と協力しないと出来上がらないものが多くあるそうです。
これは、学園の教育方針である「ビジネスの即戦力としてのプロを育てる」という考えにそったものになっています。
社会に出れば、いくつもの仕事を同時に進めなければならない場面が多々あります。そういったときに必要な要素の段取りをつけたり、優先順位をつけるというビジネススキルが大変重要です。他学科と仕事のやりとりをしながら、作品を完成するだけでなくこういった実践的なビジネススキルも身につけることができる、とある講師の方が解説されていました。
子ども育てるとは、子どもをどんな大人に育てるか、ということであると前号でもお話させていただきましたが、まさに「学生をどんなビジネスマンに育てるのか」という強い目的意識が、学園の共通理念として浸透していることを強く感じました。
日本や世界の経済・社会情勢は、今後どうなっていくのでしょうか。
はっきりしたことは、誰にもわからないのかもしれません。しかし、だからこそ、教育に従事する者たちが、目の前の児童・生徒・学生・自分の子どもに対して、彼ら自身が「確かだ」と思える自分の長所や強みに気付かせ、育てることが大事なのではないでしょうか。
次号でも、このお話を進める予定です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
(感謝・原田 隆史)2009年10月20日発行
*発行当時の文章から一部を変更している場合があります。
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