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誰かに言いたいけど誰にも言えない体験をした話  過払い金請求の相談をした結果、猛烈に思ったこと(中編)

 さて、予約の日がやってきた。
 ここでファッションチェックである。
 今日のコンセプトは、「過去は派手にお金を使っちゃったけれど、今は立ち直り健全な小市民として地味に生きている僕」である。
 髪型は寝癖を治す程度、生活はだらしなくはないが、地道に生きていてイケイケ感は皆無というのが望ましい。ここはソフトワックスでサラリと流す。
 ダウンジャケットは新品のザ・ノース・フェイスではダメである。田舎の小市民にザ・ノース・フェイスはゼイタクというものである。あのでかいロゴを見れば金をかけているのが分かってしまう。
 ここは、生必要最小限の生活をしていますという趣が望ましいので、チロ(愛犬)散歩用ワークマンダウンジャケットをチョイス。ワークマン内のブランド、フィールドコアにしているあたりおしゃれに関して無頓着なわけではないが、限界はそこまで。使い倒されて倒れかけている中年感を漂わせる。まぁ、頑張って演出をしなくても僕そのものであるが。
 パンツと中のトレーナーは2年経って若干毛羽立ち始めたユニクロ。フリース誕生以来、田舎の迷彩服として盤石な地位を築いている、まさにライフウェア。昔はご近所で色違いを着ていて恥ずかしかったものである。
 ちゃんとした市街地に出るのにこの変哲のなさ。我ながら完璧である。僕は意気揚々と事務所に向かった。

 事務所は小綺麗ながらガランとしており、受付にはチャイムと電話がポツンとおいてあるだけである。「あなたの秘密は待合室で漏れませんよ、知り合いと顔を合わせるなんて嫌でしょう。分かってますよ」という気配りが、流石は都会の大手事務所である。人と顔を合わせる時間を極力廃した工夫は好ましい。こパーテーションがあるかないかはのあけっぴろげで個人情報保護を知ってはいても実践しない(というか必要を感じる神経がない)田舎の事務所とは違う点である。まぁ、見たことはないがきっとそうであろう。僕は安堵のため息をついた。

 電話を押すと、中から痩せた中年男性が軽やかに出てきた。押せば飛ばされるような若干うだつの上がらない、優しげだけど頼もしげではない風格のなさは僕の年代特有なのか??
人間関係に疲れ切って悟りを開いたような笑顔とやわらかなものごし。しかし、どことなく隠しきれない鋭さを隠し持っている。
 もしや、弁護士先生本人なのか?それとも事務の方?大手弁護士事務所の支店とはいえ、馬鹿では事務も務まるまい。び、微妙〜。
 僕の第一印象は「頼りがいがないように見えて、DV夫に怯えて口を閉ざしてしまった人妻の相手をさせたら1時間で全てを聞いて報告書を作成してくるであろう有能な事務官」であった。
 まぁ、誰であろうが別に態度を変えるわけではないので、ここは判断を保留し、導かれるまま、羊のように個室に案内される。
 さて、男性は質問票とパンフレットを取り出し、「この質問票に書いてお待ち下さい。時間があったらパンフレットもご覧くださいね」とすべてを受け止める(しかし頼り切ると受け流しそうな)笑みを残して去っていったのである。

 意外と長くなってしまったので続く。

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