ハラダ

大学生です。ふらっと書きます。

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母が死んでから、母の声を聞いた事がある。

母と妹と3人で、寝る前に暖かいミルクティーを飲んで寝るのが日課だった。 高校に上がっても、「紅茶出来たよ」と言われたら部屋からのそのそ出てきて、一緒に飲んでから、また部屋に戻る。 誕生日は、その時間にケーキが出て豪華になった。 母が死んだ後もその時間は好きだったし、その日も妹がパウンドケーキを焼いて、2人で美味しそうだと、うはうはしていた。 ちょうど化粧台の前にいた時なのも、はっきり記憶がある。 「かな」 と不意に、妹が呼ばれた。 その部屋には私たちしかいないはずなの

    • 母のクロックスのストラップは、いつも片方だけ上がっている。

      妹から13時45分、とLINEが来た。 10月31日。 私は部室の窓を開けた。うんざりするほどよく晴れた空を見る。 母は、あと10日程で58歳になるはずだった。 大学3年の春、 通学時間が長く、深夜に家に到着することから疲労とストレスが溜まっていた。 通学時間のせいでバイトもできないのも不満だった。 それを理由に、家を出た。7月の事だった。 一人暮らしの心配する母親と口論になり、「お母さんの治療費の足しになればいいなと思っとるのに、なんでそんなことばかり言うの」と言う

      • 舐めてよ、そう。

        高揚とした顔で、彼はこちらを見ていた。 見ているのは「私」ではなくて「オンナ」である。 こんなこと上手くなっても人生なんの得にもならないし、 新規さんだったので別にこの人も私でなければいけなかった訳ではないだろう。少し虚しい。 この前のお客さんに教えてもらったテクニックを思い出し彼に使うと、私に愛おしそうな顔を向けた。 日給5万は、今日の私の価値。 インスタで流れてきた誘い文句に乗ってしまい、気付けば半年が経っていた。 こんな私でも、愛おしそうな顔をされるのはやっぱり嬉し

        • 夏のある朝、すいかが届いた。

          ドアが開けられないほど、ずっしりとしたスイカだった。 丸々1玉。 一人暮らしをはじめて2週間程経ったが、ご近所周りに挨拶をしてもいないので誰からの贈り物なのかもさっぱり分からなかった。 人違いだったらいけないと思い、そのままにして会社に向かった。 新人の営業マンは覚えることばかりで、まだなにも右も左も分からないままだ。 今のところ覚えたことはネクタイの綺麗な結び方と、愛想の振り撒き方だ。 ネクタイが綺麗に結べたところで、営業のなんの得にもならない。しかし、愛想の振り

        母が死んでから、母の声を聞いた事がある。

          俺たちはまだ付き合っては、ない。

          自分より柔らかい髪が顔にあたって、擽ったくて思わず目を開けた。 「はよ」 昨日の夜にコンビニで追加して買った桃の缶チューハイが足元で転がっていた。 「おはよーーー」 思ったより近い距離だったのだろう、少し前田はベッドの端に寄った。 「履修決めた?」 「いや、まだ決めてない」 「ちなみに締切は今日の12時までだけどそれはご存知ですか?」 「えぇ、そうなの?」 慌てて彼女はスマホを手に取る。 時計の針は10時34分を刺していた。 しばらくスマホにかじりつくのを察して、俺は先にベ

          俺たちはまだ付き合っては、ない。