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魚屋さんがウケ狙いで仕入れたハンマーヘッドをフライにしたら普通においしかった話。

晩ごはんの買い物に商店街へ行っている妻からLINEが入った。

「これは美味しいのかな?」その一言とともに添えられていたのは魚屋さんの店頭の画像。一見秋鮭や赤身の魚と勘違いしそうなぷりぷりした切り身が並んでおり、パッケージには「激レア! 高知県産ハンマーヘッド」と印字されている。ハンマーヘッドとはシュモクザメのことだ。

ハンマーヘッドカツ02

そう、そこの魚屋さん(と言いつつ野菜も肉も売っている)はときどきこういうクセのある商品販売をする。いつも鮮度のいい魚が安く買えることでそれなりに地域では人気なのだが、それでは飽き足らないのか、不意にこういう奇をてらった品物を仕入れてくることがあるのだ。

この日も店員さん同士の会話を聞くとなしに聞いていた妻によるとやはり「こんなん話題性のためやで」というノリであったらしく、妻が他のスーパーに寄ってから戻ってきても、店頭の品揃えは一パックも減っていなかったらしい。しかし珍しい食材はどんなものでも機会があれば一度口にしてみたいと思っている私のような食いしん坊にとっては、毎日の食卓に変化をつけてくれるそのお店の気風がけっこう気に入っている。

それに以前宮城産のモウカザメを食べてから、我々夫婦の間ではサメはもはやゲテモノでも何でもなく、食通は知っているリーズナブルでおいしい食材、という認識になっている。恐るるに足らず、である。

妻のLINEを受けてさっそくググってみたところ、やはりインターネットの大海ではハンマーヘッドもそのグロテスク寄りな見た目に反してふつうにおいしい、という評判が多いようであったので、すぐさま購入するよう頼んだ。ようし今夜はハンマーヘッド食べるぞう。人喰いザメならぬ、サメ食い人である。

気になる臭みは……?

ハンマーヘッドカツ03

WEBの情報だとメジャーな調理方法はもっぱら「揚げる」、要はしっかり火を通すほうがいい、ということらしい。というのもサメが属する軟骨魚類は体内の浸透圧の調整に尿素を用いているため、鮮度が落ちるとアンモニア臭を生じるようになるらしい。その臭みをごまかすのには揚げるのがいいようだ。ふーん。

ハンマーヘッドカツ04

しかしそれほど臭いと言われると逆に一口食べてみたくなるのが人情ってものである。試しにお腹のあたりを小さく切ってワサビ醤油で食べてみた。

……ん? ぜーんぜん臭くないぞ。

魚の旨味みたいなものもどちらかというと希薄だが、臭みも全くないので拍子抜け。食感はナタデココや馬のタテガミ(コウネ)のように、噛み始めはやわらかく芯のほうで弾力がある感じ。他の魚をさしおいて抜群にうまい、ということもないけど、刺身でも全然食べられそう。高知の漁師さんの下処理がよかったのかなあ。皮も丁寧に引いてあるので下ごしらえが楽チン。まっことありがたいぜよ。

ハンマーヘッドフライ、自家製タルタルソースで。

ハンマーヘッドカツ07

さっと塩コショウし、普通にパン粉の衣をつけて揚げてみた。厚みのある身なので常温から油に放って温度を上げていく方式。タルタルソースは妻の手製である。

刺身の食感が印象に残っているが、火を通すとどう変貌するのか? 妻が箸で食べやすい大きさに切ろうとして「固っ」と声を上げた。そうなのだ、けっこう身が締まっていてみっしりした重さを感じる。箸で割るのにも予想以上に力が要る。果たしてその味は?

……ん? 普通においしいぞ。

ハンマーヘッドカツ06

肉の食感は、箸で割ったときの印象からすると意外なほどやわらかく、口の中ですぐにほぐれる。とはいえカツオやマグロの肉に近いみっしり感。あるいは少しだけ鶏のササミにも似ている。そして特段臭みもなく、遠くに「言うてもわしらも魚類でっせ」というささやかな主張をほんのり感じる。総じて、おいしい。

ハンマーヘッドというからには頭をガツンとハンマーで叩かれたような衝撃的な旨味、あるいはクセのある風味を期待していたのだが、あにはからんや淡白で上品な味わい。あと高評価なポイントとしては小骨が全くないのでガブッと頬張っても安心。

結論、サメだけに「可もなくフカもなし」。

オチを見出しで書いてしまったのでこの後別に何も書くことはありません。イヤですね、中高年になると前頭葉が萎縮してダジャレにブレーキがかからなくなる。サメだけにジョーズに言えたつもり、と追い討ちをかけるようにもう一個ぶっ込んでしまったりして。

まあ真面目な話、魚屋さんがネタのつもりで仕入れたものを、その心意気を評価してあえて買って食べてみるのもまた一興ということではないでしょうか? その先にはもしかしたら未知の味覚体験が待っているかもしれないし、どこかで食べたようなありきたりの味わいしか待っていないかもしれない。今回は実際のところ後者だったけど、ぜんぜんダメージ食らってないからこれはこれで楽しい食卓だったと思うなあ。

だいいち、この量で500円は安いってものである。

妻曰く「フィッシュ&チップス向きかも」とのこと。ああそうね! そうね! それはおいしいかも、と強く相槌を打つのであった。

ご馳走サメでした。




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