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自宅でひと手間レシピ18 〜ほっこり自家製スリミ定食〜

ときに、魚のすり身を練って固めて揚げたり焼いたりしたもの、あなたの出身地では何と呼びますか? 

関西ではもっぱら「練りもん」です。「コナモン」「ホルモン」同様「もん」グループの一派として一大勢力を形成していて、下町の商店街に行くと必ず一軒はこの練りもんの専門店が存在し、我々庶民の食を支えています。

でもってなぜか個々の商品名になるとまるで天ぷらみたいに「〜天」と呼ばれる。というのもかつてはこの魚のすり身を揚げたやつをこそ関西人は「天ぷら」と称していて、小麦粉の衣をまとった現在の天ぷらと同じ名前で呼んでいた時期が長かったのだ。今では全国的な趨勢に合わせて練りもん群を天ぷらと呼ぶことは大っぴらには減ったが、個々の商品名にはその名残が残っているというわけ。

おそらく国内で最もよく流通している名前は「さつま揚げ」じゃないかとも思うけど、現地鹿児島ではさつま揚げとは(対外的な場合を除いて)当然呼ばず「つけ揚げ」と呼んでいるというから、もうおいどん何が何やらわかりもはん。

国際的にはカマボコのような蒸したものも含めてこれら魚すり身製品を「スリミ」と呼び、欧米でもその名前がすっかり定着しているようだ。

前置きが長くなったけど、今回この「スリミ」を自宅で作っちゃいました。

スリミクラブ、急遽結成。

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漫才同様、才能のある相方に恵まれるかどうかは毎日の暮らしを向上させるのに欠くべからざるファクターである。

その点でいうと、うちの奥さんと暮らしていると、その発想力に感心することがよくある。以前も食傷気味だった鶏ムネ肉の新たな調理法として自家製チキンナゲットを提案してくれたので大いに楽しめた(まだ情熱の炎はくすぶっている)。

そして今回もスーパーで一本88円の府内産、小ぶりだけど新鮮でおいしそうなトウモロコシをまた買おうかどうか迷っていると、一緒にいた妻が不意にこう提案してきた。

「あのさあ、練りもんで、トウモロコシの粒入ってるトウモロコシ天あるやん。タラが安かったらしてみたい」

なんて柔軟で斬新な着想だろう。レジカゴ片手に頬杖ついて毎日のメニューを思案しているときに、ふつう練りもんをイチから作ることは思いつかないだろう。すげえな。

一も二もなく乗っかった。スリミクラブ結成の瞬間である。

タラをすりつぶす。

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スリミの主な原料はタラである。小学校の社会科の授業で習いましたよね。一般にはスケトウダラ(スケソウダラ)という魚。あとはグチ。なぜかそんなディテールが数十年を経てもかすかに残っている。勉強っていつ何の役に立つかわかりませんね。

スケトウダラとラベルに明記されたものはあまり売っていないけど、近所のスーパーでかわいそうなぐらい安かったタラの切り身200gを購入。どうせすりつぶすので乱雑に乱雑に刻んですり鉢へ。

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もうあとはゴリゴリグジュグジュ練ってゆく。まずは塩だけで。タラ100gに対し1g程度の塩でいいらしいので、この場合ひとつまみ。ある程度筋繊維がつぶれて粘りが出てきたら卵白一個分、片栗粉小さじ2〜大さじ1程度を加えてさらにゴリゴリ。

写真はそれらを加え終えた最終練り段階の粘り感。賢明な方はお察しがつくと思いますが、この作業、フードプロセッサに全部ぶち込んでしまえばすぐです。しかし、うちにはそんな便利なものありません。

今回の具は玉ねぎとトウモロコシ。

だいたいもう粘りに変化ないな、というぐらいまで練れたら具を混ぜる。今回は200gあったので100gごとに分け、玉ねぎとトウモロコシという二種類の具を混ぜることに。

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玉ねぎはちっちゃいの半分をあらみじんに。一応表面に軽く打ち粉をしたんだけどそれでもツルッツルで混ざりにくく往生する。これ油のなかでバラバラにならないかなという不安が脳裏を支配する。

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一方トウモロコシはまだしもすり身とうまく混ざっている感じがする。トウモロコシの分量は、すり身100gに対し2分の1本。

このとき下ごしらえとして大事な工程があります。それは粒を切り離す前にそれぞれの列に包丁目を入れること。

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こうしておくと揚げるときに粒の中の水蒸気の圧が抜けるので、弾けるのを防ぐことができます。揚げ油の中でトウモロコシ弾けたらヒイッてなりますよね。これはかき揚げのときにも応用できますのでぜひ覚えてください。

(作業中の写真がなかったのでゆでトウモロコシの写真を使っていますが、今回のスリミには生を使っています)

怖いので常温から揚げた。

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まずは玉ねぎから。作り方をあちこちのWEBサイトで読むと、熱い油にスプーンですくったすり身を落とすと書いてあることが多かったけど、玉ねぎのかけらがたくさん剥がれそうで心配だったので、ひとつずつ手で握って成形し、常温の油から熱して揚げていくことに。結果、それが奏功したのか、それともタラの粘りが意外に接着剤として優秀だからか、ほとんど分解せずに揚げることに成功。

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トウモロコシのほうも、いったん玉ねぎを揚げ終わった後火を止めて、油温を落ち着かせてから同様にギュッと握って揚げた。この方法がいいのかどうかは今後の検証に拠るしかない。でも初めてにしてはうまくいった気がして心拍数が上がった。

この味がいいねと君が言ったから7月X日はスリミ記念日。

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キツネ色になるまで入念に揚げてできあがり。ばばーん。なんか石ころというか、隕石というか、ごつごつのブサイクになっちゃったけど、まあこれはれっきとしたスリミでしょう。箸で持ち上げたときの弾力なんかもお店の練りもんとそっくりで期待が高まる。

まずは玉ねぎ天から食べてみる。おおお! これは完全に練りもん。お店のやつほどむっちりしてなくて味も素朴だけど、プロの味の真後ろにぴったりつけてる。スリップストリームに入ってる。

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続いて本命、トウモロコシ天。・・・やったあー! これはすげえぞ! 

トウモロコシの甘味と香ばしさ、プチプチ感をタラがやさしく抱きとめてくれている。じんわりと奥深い味わい。できるやん、おうちで練りもん、できるやん! と妻とハイタッチ。

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こないだ義母がまた蒸してくれた黒豆おこわに、このトウモロコシ天を合わせると脳髄に電撃が走る。やさしい電撃。

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ちなみにお味噌汁も「さつま揚げ」にちなんでサツマイモ。でごわす。ほっこりするわあ。

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キュウリの酢の物にもスリミ=カニカマ(カネテツの「ほぼカニ」)を入れて抜かりなし。完全無欠のスリミ定食のできあがり。

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この日は夜から会合があって出かけねばならず慌ただしい晩ごはん(+休肝日)だったけど、充実のラインナップでした。なんだろうね、手作りごはんがもたらしてくれるこのセロトニン的な心の安定は。心がスヤスヤする。

いつもいろいろ面白いことを思いついてワクワクさせてくれる奥さんに感謝です。

ごちそうさまでごわした。

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