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オンボロサイクル・ダイアリーズ4

◆これまで
 浪人時代、勉強に嫌気がさした僕は、予備校で友達になった5浪男、岡野と共に自転車で九州一周の旅に出ることに。
 しかし、鹿児島まで辿り着いた所で2人とも自転車が壊れてしまいます・・・。


 壊れた自転車を実家に送りつけた僕たちは、とりあえずヒッチハイクで鹿児島市内を目指すことにしました。
 運良く、ピンク色の軽自動車に乗ったおばちゃんに鹿児島中央駅まで乗せてもらうことができました。お礼を言って車を降りると、お昼過ぎくらいだったので、近くの定食屋で飯でも食いつつ作戦会議をすることにしました。
 「錦江湾の刺身定食」というのを注文すると、何か分からない魚がたくさん盛り付けられていてとても美味かったです。

 さて、この先についてですが、自転車旅を続けるには新しい自転車を買う必要がありましたが、僕らは「鹿児島までは来れたんだし自転車はもういっか。」と満足してしまっていました。
 ここからは「青春18切符」で電車旅にするかとか話し合ったのですが、電車でスイスイ行ってしまうのもなんだか違うような気がしました。
 そこで、せっかくここまで来たのだからもう少し足をのばしてみよう、ということで船に乗ってさらに先の島に行ってみることにしました。

 候補の島は3つありました。屋久島、種子島、奄美大島です。
 僕は、種子島のロケット発射場に行きたいと言いました。岡野は屋久島の屋久杉が見てみたいと言いました。

 文句なしジャンケン3本勝負の結果、僕がストレート勝ちして種子島行きが決定しましたが、岡野はブーブー言ってきます。

「ロケットの打ち上げするんだったら面白いと思うけど、何もない日に発射場だけ見てもつまんないぜ。またロケット飛ばす日に見に行こうぜ。」

 そう言われるとそんな気もしてきて種子島行きは延期することにしましたが、この時の約束はまだ果たされていません。
 しかし、屋久島に屋久杉を見に行くにしても問題がありました。

「屋久杉ってけっこうな山の中にあるんじゃなかった?俺たちの格好じゃ危ないんじゃないか。靴だってこんなスニーカーだし。それこそ装備揃えて出直さないと、山舐めてたら死ぬぞ。」

「それもそうか。」と岡野も諦めたので、僕たちは第3の島、奄美大島を目指すことにしました。
 調べてみると、奄美大島までは船で10時間で、夜の7時に出港する便がありました。翌朝5時に到着して、その後は沖縄まで行くみたいでした。
 流石に沖縄までいってしまうと帰って来れない(帰りたくなくなる)恐れがあったので自粛しておきました。


 僕たちは「よし」、と決めるとお店を出て港に向かいました。ダラダラと飲み食いしていたので、外は夕方で日が傾いてきていました。
 考えてみれば、バスとか電車で港まで行けばよかったのですが、川が流れる綺麗な街並みに見惚れながら、ほろ酔いでフラフラ歩いていたものですから、港に着く頃には出港前10分くらいのギリギリの時間になっていました。
 鹿児島というのは、緯度が低くて西にあるので日が長くていつまでも明るいので、僕らも余裕だろうと思ってノンビリ歩いてしまっていたのです。
 「もうこんな時間!?」と焦ってチケットを買いましたが、チケット売り場から船を停泊している所までがまた少し離れていて、僕らは全速力でダッシュして船に向かう事になったのでした。
 やっと船の姿を見つけると、その巨大な船は5階建てのビルくらいの高さで、長さも100m以上ありそうでした。大きく太い煙突から煙を上げながらそびえ立っている船の足元にタラップがあってチケット係の人が立っていました。
 僕らは背中のリュックを揺すりながら最後のダッシュをして、係の人にチケットを見せました。

「ふう〜間に合った。」

 汗を拭きつつタラップを登り、船の2階か3階くらいの高さから乗り込みます。そして、僕らが乗って2、3分もするとやがて移動式のタラップはしまわれて、ボーっと汽笛が鳴って船は出港したのでした。
 僕らは甲板で、小さく遠ざかっていく港と桜島を眺めていました。7時を過ぎてもまだまだ明るくて、煙をあげる桜島を夕陽が美しく照らしていました。

 こんな巨大な船に乗るのは初めての経験でワクワクしていたのですが、まずは腹ごしらえということで食堂に行ってみました。
 巨大客船といえば、タイタニック号というのがパッと浮かびますが、僕らが乗っているのは豪華客船ではなかったので、食堂も実にシンプルで学校の食堂みたいな感じでした。メニューもうどんとおにぎりくらいしかなかったので、僕らは並んできつねうどんをすすりました。
 うどんを食べ終わったら、船の中を散策してみようと話していたのですが、そのうち館内アナウンスが流れてきて「そろそろ消灯します。」とのことでした。

「もう暗くなるの!?」
「早く食って寝るとこ確保しないと。」

 船のチケットにはいくつかグレードがあって、僕らのは一番下の大部屋でざこ寝というものでした。グレードを上げれば、相部屋で二段ベットがあったり、完全個室でお風呂付きというものもあるようでした。

 大部屋はそんなに混んでいなくて、壁の近くにスペースを見つけて寝袋を広げていると、やがて消灯時間になりオレンジ色の小さな明かりを残して暗くなってしまいました。
 船が大きいからか揺れはほとんど気にならず、とてもゆっくりとした間隔で傾きが変わるのがむしろゆりかごのようで、僕はすぐに眠りに落ちてしまいました。

 そして、映画「タイタニック」のようなロマンスもなく、氷山も現れず、翌朝5時のまだ真っ暗闇の中、僕らは奄美大島へと到着したのでした。


つづく

次回、「奄美のお爺 シゲ」


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