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「実質ダウン改定」にコブシを上げろ! 医療・介護・障害福祉の報酬

 ひどくなめられてるのに、反応がおとなしすぎないか。
 医療・介護・障害福祉のトリプル報酬改定の話である。

 診療報酬のうち薬価を除く本体は0・88%、介護保険サービスは1・59%、障害福祉サービスは1・12%のアップだという。
 具体的な点数は横に置いて、マクロに考えてみよう。
 
 いちばんの問題は、物価上昇を無視していることだ。
 診療報酬は2年ごと、介護と障害福祉の報酬は3年ごとの改定だから、その間の物価上昇に見合う引き上げでなければ、実質的にダウンする。
 公表分で直近の今年1月の消費者物価指数(全国)は106・9(2020年の平均を100)。その2年前と比べて6・6%、3年前と比べると7・1%も上昇した。
 それだけの率の賃上げができなければ、従事者の生活水準は低下してしまう。今回の改定は、実施時期が例年より遅い6月だから2か月の遅れも加わる。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構がまとめた産業別就業者数(2023年平均)を見ると、医療・福祉の就業者は910万人(13・5%)にのぼり、製造業(1055万人)、卸売業・小売業(1041万人)に近づいた。うち681万人は女性で、女性の最大の就業先である。
 政府は賃上げを強調するけれど、医療・福祉の賃金は抑え込むのか。それでは経済対策としてもどうなのか。
 
 報酬改定は、様々な利害対立があって難しい作業だが、物価・賃金・財政を踏まえたマクロな報酬水準の設定と、政策的意図を持った個別の点数や要件の変更を一緒にやるから、よけいにややこしい。
 両者は本来、切り分けて決めるべきではないか。
 
 物価の変動に対応するには簡単な方法がある。1点10円という換算レート(介護・障害福祉は1単位10円が基本だが、地域差が少しある)を変えて、たとえば1点10・7円にすればよいのだ。
 昨年8月の人事院勧告は国家公務員の給与を年収で見て3・3%増やすよう求め、政府は完全実施した。
 医療・介護・障害福祉の業界は、国の定める社会保障を公定価格で実施しているのだから、物価または人事院勧告に合わせて、換算レートの引き上げを求めたらどうか。
 報酬増が経営者の懐に入るのを防ぎたいなら、医療・福祉に業種別・職種別の最低賃金を定める方法もある。

 「処遇改善加算」で賃金を上げられるように厚労省が言うのは、まやかしだ。
 まず制度がとても複雑で、多大な事務作業を伴う。
 加算による増収は、すべて賃金引き上げに充てる。加算を取った初年度はいいが、次の年度以降は、その水準を維持できるだけ。今回、加算率の引き上げで若干の増収になるものの、職位に応じた賃金体系という要件が強化され、職員の階級化を強いられる。

 防衛費の膨張に加え、政府は熊本の半導体工場だけで1兆2000億円も補助金を出す。融資や出資ならまだしも、お金をあげる補助だ。お金の使い方が偏りすぎていないか。
 スト? デモ? 患者・利用者に不利益の生じない効果的な抗議戦術はないものか。

(2024年3月10日 京都保険医新聞「鈍考急考49」を転載)

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