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デジタル化で浮上する不安

 コロナ対策の遅れや説明能力の不足で支持が減った菅政権だが、強力に進めている政策はある。デジタル化だ。
 デジタル庁を今年9月に発足させ、国、自治体などの情報管理、業務、手続きをデジタル化していくという。
 紙の書類を中心にした情報把握の遅さ、手続きの煩雑さ、諸外国と比べた立ち遅れは、コロナで露わになった。デジタル化すれば、効率や利便性は向上するだろう。

 だが、単純には賛同できない。マイナンバーカードの急速な普及と利用分野の大幅拡大を図っているからだ。
 マイナンバー(個人番号)制度は、税・社会保障・災害対策に限定する形で2016年1月から利用が始まった。
 筆者は、お金に関しては税務当局が把握してよいと考える。収入や資産をきちんとつかめないと課税や給付の不公平を生む。社会保障の利用も、収入や所得によって線引きが変わるので、照会を容易にする必要性は理解できる。
 ところが今年3月からマイナンバーカードの健康保険証代わりの利用が可能になる。次に特定健診や薬剤情報も加わる。ワクチン接種の把握という思いつきまで出た。思想の反映とも言える本の貸し出しをカードでできる自治体図書館もすでに相当ある。
 病気、障害、思想信条、犯罪歴などは、法律上も特別な配慮を要する情報である。
 マイナンバーでつながる具体的な情報は分野ごとの分散管理なので、個人の全情報が丸ごと漏れることはないとされるが、デリケートな情報を結びつけるのは危ない。
 だいたい、何もかもカード1枚になったら本当に便利なのか。常に持ち歩くから、落としたら何もかも困る。
 もっと気になるのは、運転免許証と一体化する計画だ。運転免許の管理は警察。すると免許保有者全員のマイナンバーを警察が把握して、今よりずっと容易に情報収集できるようになるのではないか。

 本当に怖いのは公権力である。個人情報保護関係の法律では、国・自治体などの法令の定める事務に協力する場合、本人同意なしで第三者に個人情報を開示できる。行政は、民間への提供には厳格だが、公務員同士だと甘い。
 しかも警察は刑事訴訟法に基づく捜査関係事項照会という方法を使える(強制力はない)。本人は情報を取得されてもわからない。たとえ開示請求しても、情報取得の有無も回答されないだろう。
 菅政権の特徴は、警察庁出身者の重用だ。事務方の幹部と補佐官計11人のうち、杉田和博・官房副長官、沖田芳樹・内閣危機管理官、北村滋・国家安全保障局長、瀧澤裕昭・内閣情報官と4人もいる。いずれも警備公安畑だ。
 日本学術会議の会員任命拒否は、杉田氏が主導したと報道されている。
 個人情報の把握は人の弱みを握る面を持つ。言うことをきかせることや、どこかに非公式に伝えて不利にすることもできるかもしれない。
 おかしな使い方はしないと政府は言うだろう。けれども、公文書を改ざんし、国会でウソをつきまくり、任命拒否の理由も説明しない政府を信用できるだろうか。
(2021年2月10日 京都保険医新聞コラム「鈍考急考」15を転載)

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