Happy Women's Map 徳島県徳島市 日本初のベストセラー尼僧作家 瀬戸内 寂聴 女史 / Japan's First Bestselling Nun-Author, Ms.Jyakucho Setouchi
「あなたを応援する人も世の中にいることを知らせたい」
"I want to let you know that there are people out there who support you."
瀬戸内 寂聴 (本名 瀬戸内 晴美)女史
Ms. Jyakucho Setouchi / Harumi Jyakucho
1922 - 2021
徳島県徳島市塀裏町 生誕
Born in Tokushima-city, Tokushima-ken
瀬戸内寂聴は日本初のベストセラー尼僧作家です。不倫・駆け落ち・三角関係の官能私小説を発表、ポルノ小説家また子宮作家と批判を受けるも、昭和・平成・令和の幅広い年代の女性から支持を受ける女流人気作家です。
Setouchi Jyakucho is Japan's first bestselling nun-author. She has published semi-autobiographical erotic novels involving extramarital affairs, elopement, and triangular relationships. While facing criticism as a "pornography writer" and a "uterus writer," she remains a popular female writer who receives support from women across a wide range of generations spanning the Showa, Heisei, and Reiwa eras.
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「般若心経と小説」
晴美は徳島県徳島市塀裏町(現・幸町)の仏壇店を営む両親のもとに生まれます。何人もの内弟子と奉公人を抱えて賑やかな暮らしの中で、体が弱い晴美は幼い時から「祝詞」や「般若心経」を暗唱したり、文学少女の姉と一緒に雑誌を読んだりして過ごしながら、小説家を夢見ます。授業を休んで戦地の兵隊さんに送るチョッキを作ったり、戦場をしのんで、おかずも梅干しも無い弁当を食べたりしながら、徳島高等女学校を卒業。東京女子大学に進学すると、「小説家になる夢は現実的ではない。早く結婚して日本から 出たい。」20歳の晴美は9歳年上で同郷の国立北京大学助教授・酒井悌氏との縁談を決めます。翌月には戦争による繰り上げ卒業をして、卒業式にも出ずに北京に渡ります。新婚生活は「パリのサントノレより優雅で豪華な東洋の真珠」と評される北京王府井から徒歩三分の東単牌楼三条胡同の紅楼飯店で始まります。ロシア式の赤煉瓦建物で、近くのカソリック系フランス人学校からチャペルの3つの鐘が鳴り響きます。夫は師範大学へ講義に出かけ、ラジオ放送局へ在留邦人向け中国語講座に出かけ、家ではほとんど部屋にいて客の応対ばかりします。「日本と中国の共存共栄の捨て石になりたい」夫に賛同する晴美自身も日中の楔の一つになっていると信じます。
「東洋の真珠・北京王府井」
カソリック系ドイツ人による輔仁大学に夫が招聘されると、「什刹海の北辺一帯の閑静な屋敷町で古都らしい俤をのこす」輔仁大学学長・細井二郎宅に仮住まい、「高名な貴族の邸で紅楼夢の舞台と言われる」輔仁大学の教員宿舎に転居、西単にある筒井産婦人科という小さな病院で長女を出産します。やがて大通りで防空壕が掘られ、内地の手紙が何か月も遅れ、インフレが進んで物価は鰻登り。北京大学に移っても内地からの辞令が届かず給料も支給されない夫に現地召集の令状が届き、軍服・軍刀・飯盒・水筒を自己調達して門頭溝に出征していきます。晴美は1歳に満たない娘を抱えて、夫が現地召集された家族と同居しながら、7度に渡って引っ越し、嫁入り支度の着物を一枚も残さず中国人に売って2年を過ごします。運送店で働き始めた初日に玉音放送と、北京の司令官の放送と、凱旋の軍楽隊の行進を聞きます。「部屋からは暗い夜空に浮ぶ北海公園の白塔が見える」西単頭条胡同の片隅の赤い門の中にある建物の 504 号室で晴美は終戦を迎えます。
「焼け野原に眉山」
「日本へ戻りたくない。中国に骨を埋めたい。」無事戻ってきた夫に従って、晴美たちは帰国する日本人の集結場所には向かわず、北京に執着する100人余りの日本人たちと北京・胡同の「三列になった工場の寮のよう建物」に潜んで非合法な共同生活を続けます。やがて最後の引き揚げ船の来航が迫る中、新政府の日本人雇用名簿から除外された夫は帰国を決心します。
ある朝、中国側のトラックに晴美たちは着の身着のまま収容され、塘沽貨物廠に運ばれると、300人余りの日本人たちと1か月過ごした後、アメリカのLST輸送船に乗って佐世保に帰国。身体検査を受け白い粉をかけられ、炊き出しを受け、窓ガラスのない汽車で真っ暗な広島を通過して、焼け野原に眉山がそびえる郷里の徳島駅に親子3人で引き揚げます。ぼんやりしている晴美に小学校時代の友人が話し掛けてきます。「あなたのお母さん防空壕ごうで焼け死んだのよ。かわいそうね。」姉が自転車で迎えに来てくれて、実家に居候をはじめます。晴美は夫と結婚以来何ひとつ話らしい話をしていないことに気づきます。心の中のもどかしさを伝えようとしても「通じあうことばのないことを発見してしまった」。
「ピグマリオンの恋」
夫は地元で教鞭を取りながら、仕事を探しに度々上京します。その間に北京時代からの夫の教え子で、小川文明という文学青年が本を携えて晴美を訪ねてきます。「仲間たちと一緒に同人誌を立ち上げよう」晴美の小説家への夢が再燃します。やがて家族3人で上京。晴美はまだ手付かずの焼け跡の残る東京から、徳島やがて岡山に移った文明にあてて手紙をやり取りします。26歳の晴美は夫と3歳の長女を棄て、女子大時代の友人を頼って京都へ出奔、小さな出版社・大翠書院に就職すると、文明を呼び寄せて同棲生活を始めます。初めて書いた小説「ピグマリオンの恋」を評論家の福田恆存氏に送ります。「モノになるとも言えない、ならないとも言えない」晴美は正式に離婚、上京して本格的に小説家を目指します。少女雑誌の懸賞小説を投稿する中、「愚かな娘のために、もうひと働きしなければ」と言いながら父が急逝。同時に『少女世界』『ひまわり』に投稿した少女小説が掲載され、28歳の晴美は月給の3倍の賞金を手にします。小学館また講談社で少女小説や童話を書きはじめ、芥川賞候補作家の丹羽文雄が私費で若手作家を支える『文学者』に参加、同門下の人気作家で妻子持ちの小田仁二郎氏と同棲を始めます。
「花芯」
小川文明との情事も続ける晴美は、晴美が荻窪に借りた家と、湘南で暮らす妻との間を行き来する小田仁二郎の強力な推薦のもと、34歳で「痛い靴」を同人誌『文学者』で発表、翌年に「女子大生・曲愛玲」が新潮社で「同人雑誌賞」を受賞、文芸誌『新潮』に不倫関係また駆け落ちを描いた私小説『花芯』を執筆。エロ小説・ポルノ小説・子宮作家と酷評され全文芸誌から干されるも、小田の強い推薦で首都圏紙「東京タイムズ」と女性雑誌『講談倶楽部』『婦人公論』などで連載小説を執筆し続けます。39歳のとき同人誌『無名誌』で連載した『田村俊子』で田村敏子賞を受賞、新潮社に発表した不倫の三角関係を描いた私小説『夏の終り』で女流文学賞を受賞、作家としての地位を確立します。「このエースはねあなたのこれまでを一切流してしまうカードですよ。」トランプ占いにかこつけて純文学に挑戦するよう晴美に助言するのは、左翼作家で妻子持ちの井上光晴氏。雷に打たれた晴美は再び不倫を始めます。
「寂聴」
一方で40歳から「自ら枯れた」感覚を持ち始めた晴美は、束縛から逃れるように気の向くまま流浪を続けます。作家の三島由紀夫ならびに川端康成の自殺がセンセーショナルに報道される中で「生きながら死ぬ方法はないだろうか。」日中国交正常化で文化界代表団の訪中が始まると、女学生の頃『寄小読者』(邦訳『をとめの旅より子どもの国のみなさまへ』)を読んですっかりファンになった憧れの中国人女性作家・謝冰心と交流を始めます。「生命は80歳から始まる。(生命従80歳開始)」「愛があればすべてがある。(有了愛就有了一切)」瀬戸内は出家を志します。多くの寺院に拒否され続けるも、ようやく今春聴(今東光)大僧正のもと中尊寺本堂で得度式を受け、法名「寂聴」を授かります。翌年、比叡山で60日間の修行を経て京都嵯峨野の寂庵に住まい、天台寺住職となり「瀬戸内寂聴」に改名。「人の愛に飽きたのではなく、人の愛を澄明に洗いたいと思うだけだ 」以後、死刑囚・麻薬中毒者・小保方晴子女史など社会から非難される人と説教的に交流、悩める人に寄り添い亡くなる直前まで法話また執筆を続けます。「生きることは愛すること。世の中をよくするとか、戦争をしないとか、その根底には愛がある。それを書くのが小説と思う。」
-『花芯』(瀬戸内寂聴 著 / 三笠書房1958年)
-『いずこより 自伝小説』(瀬戸内寂聴 著 / 筑摩書房1974年)
-『場所』(瀬戸内寂聴 著 / 新潮社2001年)
-徳島県立文学書道館 Tokushima Prefectural Museum of Literature and Calligraphy
-徳島新聞 Tokushima News
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