『モンガラカワハギは傘を差す』
人はワタクシのことを『お洒落』なんていう。
黒地に白い水玉がいいわねえ、なんて。
あいにく自分では見ることはできないけれど、
ワタクシはそういう柄をしているらしい。
人はワタクシのことを『地味』なんていう。
海の中はもう少し明るい色の方がいいのじゃない?なんて。
キレイな色で華やかな魚はたくさんいるけれど、
ワタクシみたいにシックで存在感がある魚は
そうそういない。
人はワタクシのことを『奇抜』なんていう。
あまりに目立つと大きな魚に見つかりやすい、なんて。
自分はいつもと変わらないけれど、
ワタクシは変わって見えているらしい。
人はワタクシのことを『とっつきにくい』なんていう。
特に意識はしていないのだけれど、
気が付くと一人でいることが多い。
特段気にしていないけれど、気にしているかもしれない。
ある日泳ぎながら上を向いてみたら、水の粒粒がたくさん
落ちてきた。
魚たちが口から出す水疱。
いつだったか人が話していた、『雨』に似ていると思った。
そうだ。雨が降ったのなら、傘を差すのはどうでしょう。
海の中だって、傘を差してもいいんじゃないかしら。
このシックなワタクシに似合うステキな傘を、
差してみてもいいんじゃないかしら。
その日からワタクシは傘を探した。
どこに行っても変な顔をされるけれど、
それでも傘を探し続けた。
みんなが言う。「海に傘は必要ないよ」
人々は言う。
「雨に濡れるまでもない、もう濡れているんだから
傘は必要ないよ」
それでも傘を探し続けた。
傘はなくて、さまよってもなくて、
ワタクシは泳ぎ疲れていつの間にか眠っていた。
一体何のために傘を探しているのだっけ。
ワタクシはどうして傘を必要としているのだっけ。
顔を隠したい?
体を隠したい?
距離を取りたい?
雨を遮りたい?
どこからかフワリとワタクシに触った。
傘のようなクラゲ。
たくさんのクラゲが、ワタクシに触った。
ワタクシも一緒に揺れながら、
クラゲと一緒にユラリと海に身を任せた。
フワリユラリ、フワリユラリ。
クラゲは何も言わずに、ユラリフワリ。
どこ吹く風とばかりに、ユラリフワリ。
クラゲを傘の代わりに、ユラリフワリ。
どこ吹く風とばかりに、ユラリフワリ。
ワタクシは傘を差す。
今日も明日も傘を差す。
誰に何を言われても、ユラリフワリと傘を差す。
原画はInstagramにて公開中!
https://instagram.com/happyuppersmile