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あつあつ、さくさく

ものすごい方向音痴である。
どれくらい方向音痴かというと、行った場所なのに戻れなかったりする。

行きと帰りは景色が違うので、わたしからすると当然なのだが、だいたい驚かれる。

地図も、自分が地図の中のどこにいるかわからないので、迷ったら役に立たないが、最近のスマホの道案内は自分がどこにいるのかわかるので、ものすごーくありがたい。

おかげで、かなりの確率で迷子にならずに済んでいる。

がしかし、やっぱり、迷子になるときはなる。

先日はよく行く街だが、普段使わない銀行に行くのに、スマホで道案内をしてもらったら、ものの見事にハマって、後になってみたら、四角形の一辺でいいのに、三辺をぐるっとまわるような感じになってしまった。

が、その途中でハマったな~と思ったその時に、前にネットで見て気になっていたパン屋さんの前に出たのである。

ミカヅキ堂という名前のそのお店は
明るいパン屋、というコピーどおり、ちょうど昼にかかった天気のいい日に、とても明るいいい感じをはなっていた。

道に迷っている最中なのだけれど、迷っている最中だからこそ、またこられるかもわからないから、もう入るしかない、と用事はいったんおいておくことにして、中に入る。

先客が一組いたが、広くはない店内は焼き立てのパンの香りでいっぱい。

本当はお昼を食べるお店を決めていたので、甘めの軽いパンにしようとしていたのだけれど、お惣菜パンがめちゃめちゃおいしそうで、悩んだその瞬間、店員さんが、失礼しますと言って新しいパンを並べ始めた。

人気ナンバーワンと貼られたそのパンはカレーパン。

こんな焼き立てにはもういつ会えるかわからないので、思わず、それを取ってレジへ。

お店の外に小さいベンチがあるので、そのまま会計をすませ、ベンチであつあつのカレーパンをぱくり!

さくさくの外側の中はもっちりしたパン生地とやけどしそうにあつあつのカレーがとろーりと流れ出てきた。

うわ~という声は心の中であげて、こぼさないように、かぶりつく。

天気の良い日に、こんなおいしいものを食べている。
すごいしあわせ。

ほんとうにタイミングでしか味わえないおいしさというものがあるのを、心底味わった瞬間だった。

ちょっと冷めてももちろんおいしいパンだとおもうけれど、あのあつあつ、さくさくは、あの瞬間でないと味わえない。

太陽の陽ざしと、気持ちのいい風と、あつあつ、さくさくのカレーパン。

本当に至福の瞬間である。

迷子の最中だけれど、もうしあわせ以外のなにものでもない瞬間を思う存分味わった。

こういうちょっとした、自分では作り出せない偶然のしあわせは、ものすごくうれしい。

この日は、このカレーパンのために、神様が迷子にしたんだと思うことにした(笑)

食べ終わって、服についたカレーのにおいのする粉をはらって、立ち上がる。

さて、改めて、目的地へ。

さっきまでの、時間がないのにまた迷っているという情けない気持ちとは正反対のご機嫌な気分で歩き出した私だった。


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