「山は登るものではなくつくるもの」 石井裕・米MIT教授


 #NIKKEI

(以下一部転載)
「100年後にも廃れないビジョンこそ大事だ」と石井さんは力説する。…

石井さんは北海道大学大学院修了(情報工学)後、NTTの研究者を経て、1995年にMITメディアラボに移籍した。「タンジブル・ビッツ」「ラディカル・アトムズ」と呼ぶユーザーインターフェースの新概念を提唱し実践してきたが、それは言い換えれば「ピクセルエンパイアへの挑戦だ」と石井さんは言う。…

コンピューターやスマートフォンを操作するとき、アイコンと呼ばれる図形をマウスでクリックしたり指で触ったりするのが一般的だ。このGUIという手法の導入でコンピューターを多くの人が直感的に扱えるようになった。それ以前はプログラミング言語を学ばなくてはコンピューターに命令できなかったことなど今では想像できない。GUIは大きな変革だった。

ただアイコンは画面上の小さな点(ピクセル)の集まりであり実体はない。石井さんは日常生活で触れる様々なモノの操作を通じてコンピューターのデジタルの世界の操作ができないかと考えた。それが「タンジブル(実際に触れることのできる)・ビッツ(デジタル情報)」の発想につながる。…

「MITに来たとき、これから頂上の見えない高い山に登るものだと思っていた。しかしそれは間違いだった。山に登るのではなく、山をつくるのが仕事だと気がついた」と石井さんは述懐する。だれも気がつかない領域を見いだし後進の研究者が挑戦し続ける大きな研究分野をつくりあげる。…

タンジブル・ビッツの次のプロジェクト「ラディカル・アトムズ」では人間との相互作用でモノが形を変える世界を提示した。手をひとふりするなど単純な動作で使用目的に沿った形状に変形するテーブル。発汗によって微細な蓋(フラップ)が開閉し通気性を調整するウエア。石井さんの作品は初期から芸術的な要素を含んでいたが、それがさらに色濃くなり、ヒトとモノとの間にやがて生まれるであろう「未来の関係」を先取りしようとしている。

講演などで「出杭(でるくい)力」「道程力」「造山力」という3つの力の話をする。出る杭(くい)になることを恐れない。道程は高村光太郎の詩に由来し「道を自らがつくる」こと。そして新しい世界を創造する「造山力」の大切さを日本の若者に呼びかけている。…


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